中国食事マナーは料理を残していいと言うけれど
夫の故郷、中国を初めて訪れたときの話です。
義両親との初対面ということで、私は事前に中国文化の下調べをしていました。
その中で出会ったのが、「中国では料理を少しだけ残すのがマナー」という情報。記事にはこんな感じで書かれていました。
ふむふむ。
なるほど、義両親がたくさん料理を出してくれるなら、ここは『残す』ことで感謝を示すべき場面があるかもしれないと心にメモしました。
いざ、人生初の中国の地に降り立ち、義両親と対面。
彼らは温かく迎えてくれ、家にはフルーツやお菓子が机いっぱいに用意されていました。そして、沢山の手料理を振る舞ってくれました。
そして食事中、その料理をいただきながら、「少し残す」というマナーを胸に、様子を伺いながらに箸を進めました。
しかし、ここで思わぬ外の事態が発生。
義母:「あとちょっとだから、食べてね。」
義父:「おかずが残るのはもったいない。ほら、これもどうぞ!」
気がつくと私のお茶碗テリトリーにはおかずが追加されます。そして料理皿は空っぽに。
『…… え?残す方がいいと思ってたんだけど?一体どうれば?これはマナーとしてどう反応すれば良いのだろう?』
内心混乱しつつも、「謝謝(ありがとう)!」ととりあえず笑顔で応じました。なんとなく文化的なミスマッチは感じつつも、せっかくのご馳走を美味しくいただきたかったのです。
最初はこの対応で大した問題にはなりませんでしたが、しかし数日後、徐々に私の胃袋に変化が訪れます。
基本的に油が多い食事が多いので、徐々に胃がもたれてきてしました。
ここで、今までハイペースで食事+おやつ(もはや食事レベルのおやつ)を受け付けていた自分の過ちに気が付きました。
そこで、「お栗はしばらくお腹がいっぱいであることと。胃もたれしてしまったこと」を夫と義父母に伝え、しばらく食事の量を減らして胃腸の回復を待つことにしました。中国語はあまりできないので夫に翻訳してもらいました。
しかし、ここでも問題が続きます。
私の断り方が上手くないからなのか、私なりに断っても断ってもご飯(食べ物)が出てくるのです。おそらく1日で「不要、謝謝(いりません、ありがとう)」と50回くらい言っていたと思います。謝謝の安売りバーゲンです。文化の壁、そして言語の壁が私の前にたちはだかります。
食事中、そうこう考えているうちに、うっかりしているといつの間にか茶碗のご飯の上にいつの間にかおかずが追加されました。
どうやったら本当に食べられないと言うことが伝わるのか、分かってもらえるのか。。。
頼りの夫にヘルプを頼むと
夫:「無理して食べなくていいよ。」
しかし義父母は食事中「残すことはもったいない」という意見は変わないようで、さらに義父母の夫婦間でも「食べて」「いやあなたが食べて」とおかずを押し付け合う小競り合いが発生していました。
義父母:「お栗も頑張って食べよう。」
と言われると、私も苦笑いするしかありません。
もちろん食べ物を粗末に扱いたくない言う点では、大賛成ですし、せっかく作ってもらった料理を残すことは避けたいという気持ちもありました。なのでのその日は無理して食べました。(新婚時代の当時はこの対応が精一杯でした。今ならもっと上手くやれるでしょう)
セクハラやパワハラなど、世の中にはいろいろなハラスメントがありますが、この状況を私の中で「飯ハラ」と名付けました。
さて、せっかく初めて中国に来て、初めて義両親に会ったのですから、この飯ハラ(だと感じる)状況をどうにか打破したいものです。
そこで、「まだまだ胃もたれしていること、そして今は油ものやたくさんの量を食べたくないこと」を夫経由で義父母に”改めて”伝えてもらい、私も拙いジェスチャーで表現しました。私の想いよ伝われ。。と思いを込めて。
念のため、「朝ごはんに油条(ヨゥティャオ)*のような揚げパンも、今の私は食べられないので、もしそれが食べたければあなたたちだけで食べてください。と夫に伝えてもらうことにしました。予防線を張ります。
*油条
そして次の朝。
相変わらずお腹は全く空きませんが、キラキラと朝の日差しがとても気持ちがいい朝でした。
義父:「おはよう」
義父:「お栗、朝ごはんを買ってきました」
どうやら義父が朝から朝ごはんを買ってきてくれた様です。(義父は少し日本語が話せます)
さて、買ってきた朝ごはんにそっと目をやりました。
噂に聞いていた「粢飯(ツーファン)」でした。
この「粢飯(ツーファン)」は、中に「油条」(揚げパン)が入っており、その周りを餅米で包んでいるものです。
「油条」(揚げパン)がレベルアップして「粢飯(ツーファン)」になって目の前にいます。しかも結構大きく、スタバで言えばTallサイズくらいあります。
「油条(ヨゥティャオ)」がワンリキーなら「粢飯(ツーファン)」はカイリキーです。マサラタウンを出たばかりのルーキーが、少ないHPでカイリキーに出会ったようなものです。(私はポケモン金銀世代です)
炭水化物 with 油 in 炭水化物 のカロリー爆弾です。
見た目だけでも私の胃をにとどめをさします。
(私の胃もたれについて覚えてくれている方はここにいるのでしょうか)
しかし!
穏やかで優しい義父がわざわざ朝はやくからお栗のためにと買いに行ってくれた有名な名物です。しかもなんとなく食べて欲しそうにしている感じがします。
そんな義父の気持ちを無下にしたくありません。一緒に美味しいね。と言いながら食べてあげたい。
でも無理です。今の私の胃にカイリキーは倒せません。
3秒ほどの沈黙、その間私の中でしばらく葛藤が続きました。
結局、一口だけ食べて、それ以上はもう食べられない旨を伝えました。
断り続ける、というのも楽ではありません。
その場をなんとか乗り越えたものの、想定していた内容とは別の異文化をひしひしと実感した瞬間でした。
帰国後、飯ハラの対策について夫と話し合うことになりました。しかし、義両親が私をもてなそうとしてくれた心遣いには、今でも感謝しています。
日本に帰り、汁茶碗に何ら抵抗がなく白米を盛ることができる様になった私は、立派に夫家庭の文化に順応しているようです。
(おしまい)
過去記事