「営業はいらない」(三戸政和) を読んで思ったこと
本の紹介者:江草 嘉和 https://note.com/yoshikazuegusa
こんな人に読んで欲しい
・ 今現在、営業として働いている人
・ 営業経験を活かして、経営人材になることを考えている人
・ 営業に限らず、5年後、10年後の自分の働き方を考えたい人
1.その正しいやり方で、勝てるのか?
先日、とある日系企業の40代課長職の方のボヤキを聞いた。
「うちの部下は、厳しくするとすぐにモチベーションが下がってしまう。社会人としての基礎的なことすら出来てない。
日本の若い人は頼りない。バリバリやっている中国の若手には勝てなくなる」
その課長が部下について指摘されていた点は、私も「確かにその通り」と思うものだった。日本企業で習う仕事の基本のようなもの。
その課長のように仕事ができるようになるためには、克服しなければいけない点だろう。戦術レベルでは正しいと思う。
しかし、、、その課長のような方が「正しい戦術」を頑張って繰り返してきた期間は、日本がいわゆる「失われた20年」と言われている時間だ。
この期間、対2000年比での名目GDPの伸びは、アメリカが48%、中国が482%に対して、日本の伸びは16%。
ビジネスの基礎を指導することを否定する気はないが、私がその部下だったら、きっとこう思っただろう。
「その"正しいやり方"で、中国とアメリカにボロ負けしてきたんじゃないか」
枠にはまった思考に慣れてしまうと、戦術レベルでしか考えられなくなる。今の時代、枠の中の正解を追い求めることにさほど価値があるわけではない。
大事なのは、枠を外して、戦術ではなく、戦略レベルで物事を考えること。
本書「営業はいらない」では、次代遅れの「営業戦術」は必要とされていないどころか、働く人を不幸にするもの。
そしてテクノロジーを基にした「営業戦略」がなければ今後競争に勝ち抜くことは難しいと述べている。
2.三河屋のサブちゃんは、生き残れるのか
本書でもモデルとして紹介されていた、サザエさんに出てくる三河屋のサブちゃん。
常に顧客の状況を把握し、提案機会を逃さず、受注を重ねるその姿は、古き良き営業の姿である。
しかし、サブちゃんのもつ機能で、現代のテクノロジーで代替できない機能はあるのだろうか。
スピードはサブちゃんもAmazonも大差ないだろう。おすすめ機能はAmazonの方が正確かもしれない。
情緒的価値がサブちゃんにはあるかもしれないが、恐らくサブちゃんよりAIの方が、消費者としてのあなたの情報を把握して、あなたの心に響くものを持ってこれる。
そもそも「営業」とは何か?これは、私が営業として働いた13年間、常に問い続けた問である。
「顧客価値を最大にする」「顧客の課題を最大にする」等、様々な定義を聞いてきたが、当事者としてあまりしっくり来ていなかった。
エンジニアとは違う、営業である自分の付加価値を、強引に定義するだけの行為にも思えた。
私が働いていた場所では、「戦術」が付加価値になる場面もあった。しかし、それを営業の本質とは思えなかった。
結局私がいきついたのは、営業とは「商品・サービスを販売する」ことであり、それ以上でも以下でもない。
「商品・サービスの販売」は、人と人との接点で行われてきた。
それゆえ不確実性が高まり、その手法はブラックボックス化され、本質的ではない付加価値も作り出され、「伝説の営業」が生まれたりもした。
しかし、テクノロジーの進化により「商品・サービスの販売」のやり方は急速に変わってきている。
これまで自動車メーカーの強みの一つは、強固なディーラー網を持つことであったが、ディーラー網を持たないテスラの車はネットでバカ売れしている。
「車のような情緒的価値を伴うものは対面が原則」と思ったところで、テクノロジーを駆使すれば、自動販売機でも車が売れている現実がある。
自分の仕事は、お客様は、業界は、「特別」だから、という思考は危険だ。
3.営業を切り分ける
それでも営業という行為、すなわち「商品・サービスの販売」に付加価値がないわけではない。
「営業(の全て)はいらない」というのは、癌細胞を健康な細胞もまとめて取り除くようなもので、スマートではない。
営業の中でも不要なものと、必要なものを見極め、必要なものを強化していくことが、方向性としてのぞましい。
キーワードは、テクノロジーだ。逆説的にいえば、テクノロジーとひっつけられるものが、営業の中に残された。
必要なものだろう。Sales Techの波はすでに来ている。弊社でも、営業のシステム化、データ化には、
意識的に優先順位を上げて取り組んでいる。今後は、老練な営業マンの隠し持った人脈や情報で勝負するのではなく、情報をオープンにして仕組みを作って巻き込んでいく「営業」が勝ち残っていくだろう。
テクノロジーにより営業マンの数は減るだろうが、「営業」という行為の本質は、より純度の高い形で、テクノロジーと結びついていて、これまで以上の付加価値を生じることが可能になるのではないだろうか。