【感想文】『海のまちに暮らす』のもとしゅうへい著
本で破産する覚悟はできていませんが、本が好きです。
こんにちは、永遠の図書委員ユルワです。
書架でふとみつけて、妙に気になってしまう本、というのがある。
今回もそんな出合い方だった。
マルジナリァ書店での出合い
京王線分倍河原駅前、油の匂いが漂うファーストフードが店を構えるビルの3階。エレベーターを降りるとスッキリ洗い流されたような空間が広がっていた。
それがマルジナリァ書店だ。
出版社よはく舎が営む書店兼カフェである。
◆マルジナリァ書店
この書店についてはまた後日改めて書き綴りたいので、この辺で。
先日趣味のブックカフェ探訪で、彼の地を訪れた際、クリームソーダを待つ間に、書架を眺めていて出合ったのがこの本だった。
グレートーンの表紙にブラウンのグラフィック。
昨今の色彩とデザインにあふれた表紙が所狭しと並ぶ中、極めてシンプルなこの本がなぜか妙に強く目に入ってきたのだ。
真鶴出版についても、著者についても失礼ながら存じ上げない。
タイトルと数ページの流し読みだけで内容を察するしかない。
なぜか妙な確信が脳裏を湧き上がり、持ち帰ることを決めた。
『海のまちに暮らす』
海のまち、とは出版社名にもなっている真鶴のことである。
著者は当時東京藝大を休学し、あえて日常の外へ出ることを選んだ。
◆著者について
https://note.com/shuunomo/n/n3ccefd75e385
◆真鶴出版について
https://manapub.com/about
下手をすると自分の子供と言っても良いくらいの年齢差がありながら(私は子無し)も、レールからあえて外れてみるという行為にどこか強い共感を覚えたのだろう。
思えば私自身、若い頃から「レールに乗り続けられない」性質があって、あえて獣道を歩くような生き方をしてきた。
今フリーランサーとして数年続けていた事業が一段落して、半ば開店休業状態→別の仕事を始めつつある転換期と言えば聞こえは良いが、ろくに稼げているわけでもない状態。
それでも人生何度目かの「宙ぶらりん状態」も慣れたもので、どこか心地よく愉しむ心の余裕すらある。
そんな自分の状態がこの本に強く惹かれた理由なのだと思う。
さらに言えば、10年以上前に私自身も、南の島国で2年間暮らしていたことがあって、「海のまちに暮らす」共通点を無意識のうちに見出したのかもしれない。
学校とアルバイト先とを往復する学生としての日常から、真鶴の海辺の街に移住したからと言って、著者が無為な日々を過ごしているわけではない。
作物を育て、泊まれる出版社の異名を持つ真鶴出版と、地元の図書館での仕事。そして自身の製作活動を規則正しく進める姿にも好感を抱いた。
軸がブレない著者のライフスタイルが、下手な飾り気のない文章で綴られているのが、読んでいて心地よく、あっという間に最後のページになってしまっていた。
ふとそんな言葉が浮かんだ。
年齢だとか社会的地位とかそれ相応と言う枠組なんて無視して、あえて冒険に挑戦しようかな、なんて思ったり。
静かに、そして緩やかに、心の中でエンジンがかかった。
そんな気持ちになれた一冊。