勇者たちの物語
池辺葵著『プリンセスメゾン』(小学館・スピリッツコミックス)
力強くて愛らしい。遅ればせながらkindleのおためしで読み始めたものの、数日後に迎えた給料日には《本ならなんでもそろう》宮脇書店で、1冊ずつ揃った全6巻をわしづかみにしてレジに持って行っていた。
各エピソードごとに主人公が違い、彼らの日常を覗いている。別々の話がつながっているだけかと思いきや、時の流れを紡いでいる。平穏な日々かと思いきや、登場人物たちの関係性や生きる環境がグラデーションを描くように変わっていく。このような文体は、よしながふみ著『きのう何食べた?』にも感じられたことだ。確かに私たちの生活はさして何も起こらない日常の連続であるが、何かのきっかけである人との関係がグンと近づいたり、大きなことを決断したりする。けどまぁ、それは誰にでもあること。『プリンセスメゾン』や『きのう何食べた?』は、そんな普通の人なら見過ごしそうな日常を取り上げているので、読んでいる側としては<これは自分たちの物語だ>とハッとさせられる。
読んでいると多様性?女性活躍?様々なコピーが頭を駆け巡る。登場人物たちはただ、欲しい生活に対して躊躇しないのだ。そして他者の生き方への尊重。これこそ多様性である。
欲しい生活を躊躇しないというのは現役世代にとっては勇気のあることだと思う。最終巻のラストシーンは作者からのメッセージであろう、これに私は忘れられないほどの強い余韻を味わった。
プリンセスメゾン、これは勇者たちの物語である。
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