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英断「3000」→「Pretty Woman」

新型コロナウイルスの影響で、単館シアターが危ない。というコラムを読んだ方は多いのではいかと思います。単館シアターは、大型の劇場チェーンでは掛けてもらえないような、アート系映画作品が中心であるため、映画ファンからしたら大変悲しい現状です。ただ、悲しいかな、特に若い世代には昔ほど映画が娯楽の中心でなくなってしまったような気がしています。アニメや大型フランチャイズ、アイドル俳優が出ている恋人の片方が不治の病で死んでしまうような映画といった瞬間的ヒットはあるかもしれませんが、特に洋画は休日の選択肢からは外れてきてしまっているでしょう。単館での小規模な作品は、このような元々の経営不振だったところに、このパンデミックが来てしまったというのが事実ではないでしょうか。昔に比べて、映画館の数は減っているように思えます。でも、本当はそうではないようです。日本映画産業統計によれば、2000年から映画スクリーン数で数えているようですが、現在は複数のスクリーンを抱えた「シネコン」型が通常となっている為、1993年(1734スクリーン)を底にして、増えているようです(2019年現在3583スクリーン)。ここ20年の館数も2000年の2524館(単館:シネコン=1401:1123)から2019年は46%もアップし3583館(単館:シネコン=418:3165)へと伸びています。ただ、内訳をみると、コロナに関わらず、単館系の経営衰退は予想以上に進んでいたことが分かるでしょう。

あ、業界統計を語りたいわけではなかった…。1991年、シネコンなんて言葉すら存在しなくて、高校生の僕が通う町の駅周辺には、小さな映画館がいくつかありました。もうどれも閉まってしまったけれど。その男子高校一年の時、高校で出会ったばかりの友人何人かと、放課後に喫茶店だかどこかへ寄ったあとで、「映画でも見るか?」という事になり、並木通りにある小さな映画館へ向かったことがあります。スマホもネットもない時代なので、映画館で時間を聞いて調べたのでしょうか。そこで上映されていたのが「ゴースト/ニューヨークの幻」と「プリティ・ウーマン」の二本立てでした。共に、それぞれニューヨークとロサンゼルスを舞台にした1990年のアメリカ映画ですね。今考えると、二本立てって贅沢だよな。4時間映画見ていられるわけだから。当時の社会全体の時間に対する余裕さえ感じる。さて、「ゴースト」もいい作品なのですが、「プリティ・ウーマン」が自分に与えた衝撃は、ある種今も目が覚めないくらい、計り知れないものでした。

「ウォール街の狼」と呼ばれる実業家が、ハリウッドの道端でコールガールと出会い、6日間を共に過ごす事になる。情け容赦ない金儲けの人生に、全く違う感情が芽生えていく。そしてそれは、ビバリーヒルズ・ロデオドライブで起きたシンデレラストーリーに変わる。

映画の仕事をするようになってから知ったのですが、この作品は、当初ドラッグに溺れた娼婦の話だったようです。ディズニー傘下のタッチストーンピクチャーズということで、そこから大幅に変更され、世紀のラブコメディとして生まれ変わりました。しかも、タイトルは6日間を過ごす値段である$3000から、「3000」となるはずだったとか。しかし、ミレニアムを10年後に控えていた当時、3000とは未来を表す数字であり、SF映画と勘違いされるので、「プリティ・ウーマン」となったようです。こう考えると、邦題も含めてタイトルの威力は商業的にも重要な事が分かります。

この作品の魅力は、ウォール街の実業家とコールガール、そして二人を包むビバリーヒルズはロデオドライブというところにあります。コールガール役はジュリア・ロバーツ。彼女の出世作と言えるでしょう。その通り、ゴールデングローブでは主演女優賞を受賞し、アカデミーにもノミネートされています。当初予定されていたメグ・ライアンやミッシェル・ファイファーでは想像が出来ない。オーディションで選ばれたジュリア・ロバーツだったから、ハリウッドでの出会いも、プリンスを口ずさむジャグジーのシーンも、ピアノでの情事も、誰とHはしても「好きな人としかキスはしない」という台詞も、そしてあの真っ赤なドレスもよかったのだと思います。

高校生だった自分にとって、最初にこの作品がくれたのは音楽の衝撃でした。当時、ケニー・ロギンスやコリー・ハート、Breatheを聞いていた自分は、洋楽のライナーノーツを何度も読んでは、アメリカやイギリスにいる自分を妄想し、まだ知らない世界に、無限で幼い憧れを抱いておりました。この作品の中には、数々の世界観を支える音楽があります。ロイ・オービソンの「プリティ・ウーマン」だけではなく、レッチリ、デヴィッド・ボウイ、ロバート・パーマー…数々の名曲が80年代の総決算のように、そしてここから始まる90年代へエネルギッシュに向かうように、この映画の中に散りばめられております。その中の一曲、自分の忘れられない一曲が、スウェーデン出身のロクセットが歌う「It Must Have Been Love」でした。

昨年12月、ボーカルのマリー・フレデリクソンさんが亡くなったというニュースが走りました。会ったことはないのですが、自分の記憶のどこかにいる人がいなくなってしまったようで、その日はそのニュースを寂しく読んで、久々にこの曲を聞きました。

人生は真っすぐ明日に進んでいくと思っています。ただ立っていられるのは今日というだけで。でも、音楽や映画を見たときに、確かに記憶はタイムトラベルをするし、そして感情は、その時間から何かを触って、現代に戻ってきます。

少し前、小倉淳さんの大学の授業でお話させて頂いた時、学生にどの映画を勧めるかと聞かれた時も、この作品をお伝えしました。一生懸命勉強して、しっかり社会も恋愛も見極めて、流されず。でも心の中で「プリティ・ウーマン」のようなシンデレラストーリーを忘れないで欲しいと伝えた事があります。

なぜか?…それは、必ず起きるから、とでも答えておきましょうか。

「プリティ・ウーマン」をU-NEXTで視聴



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