見出し画像

爆走風塵をみた

「ラオスから中国までバナナを届けて16万円の報酬です。その後は6日間かけてチベットまで別のバナナを届けてください。報酬は40万円です。」

これが儲かる仕事なのか、全く想像がつかない。ましてや労力だけではない。家族を遠くに残して、国境を越えた先で何が起こるかわからない。のしかかる精神的ストレスも含めるとその苦労の方が大きいのではと思ってしまう。しかし、同時に背に腹は代えられない事情もあるようで…

これはNHKで放送されたドキュメンタリー番組『新・爆走風塵』で繰り広げられる光景だ。

中国の経済成長が鈍り、追い詰められる運送ドライバーたち。借金を抱えるベテランとワケあり新米が選んだのは、ハプニング続出の過酷な道だった!行く手は天国か地獄か…

番組HPより

どうやらこの報酬は中国でもよろしくはないらしいことがわかってくる。中国の経済成長の鈍化は、末端のトラックドライバーに重くのしかかってくる。年々この報酬は下がっている傾向。昔は荷主とドライバーをつなぐ仲介屋が幅を利かせていたが、ウーバーのように直接両者がやりとりできるようになった結果、仕事の取り合いと価格競争が激化。まさに追い討ちである。
このドキュメンタリーは、一帯一路を掲げる中国の広域経済圏の中でも、その核を担う物流の厳しい現場で、たくましく生きていく人々を追っていく人間ドラマなのだ。

とにかく道中むしりとられまくる

そんなドライバーたちを取り巻く環境で、かかる費用は燃料だけではない。部品・修理代に加え、タイヤの入替や車検の更新、果ては警察からの罰金まで。道中あらゆるものが厄災としてふりかかる。
せめて、早く目的地につけば、それだけ次の仕事にとりかかれるのだが、中国から国境を越えた先の目的地は、渋滞、脱輪、強盗が頻出する峠越え、がけ崩れの峡谷、高山病に氷点下。逐一、時間と手間がかかる!
すべてのヒト・モノ・トラブルがトラックのすべてをむしりとってくる。

挑むのはベテランでしっかりもののアニキとこの道に入ってまだ2年のおっとりとした新人。でもアニキもなんだかんだでお人好し過ぎて味がある。この二人のやりとりもドキュメンタリーのドラマ性を高めていて良い…。

またラオスからチベットまでの道中はドローンを駆使した数々の雄大な景色が映し出される。さらには緊張感を盛り立てるBGM、遠藤憲一さんのドスの効いたナレーション。全てこだわりがあり、世界観に引き込まれる。

チベットへ向かう峡谷では峠の坂道で踏み外したトラックの残骸が広がり、まさにリアルマッドマックスだった。

正直、色んな意味で「これどうやって撮影・取材してるんだ!?」の連続だった。

スマホのアラーム音が同じだった

数々の衝撃の光景が続く中、ベテランドライバーがラオスへ向かう途中、朝早く出発するためにスマホのアラームが鳴った。その時のアラーム音が自分が使っていた音と同じだったのだ。安直だけど、その瞬間、世界がつながっているというか、彼の住む世界と自分の日常が地続きであることを思い知らされた。
燃料の横流しが横行し、小油という違法燃料業者が跋扈したり、途中の道路でチベット仏教の巡礼者が独特のお辞儀をしながら進む横を通り過ぎて行ったりと、およそ自分の想像を越えた世界の中で生きている彼らだが、スマホのアラーム、お気に入りのカップラーメン、大事にしている家族との時間まで、普段の我々と全く変わらないものだと気付かされる。

これこそがドキュメンタリーが私たちに訴えかけるリアルなのだなと強く感じた。フィクションではなく、実録だからこそ持ち得る強烈なメッセージだと受け取った。

果たしてドライバーの二人は無事に荷物をお届けできるのか!?そして正月までに家族の待つ故郷に戻れるのか!?
ぜひ本編で二人の行く末を見届けてほしい。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?