西洋菓子店 プティ・フール/千早 茜

主人公の亜樹さんを取り巻く登場人物が魅力的である。
中でも、菓子職人の祖父、「じいちゃん」はいわゆる「粋な男」でズバズバと本質を突く言葉が心地よい。

『女ってさ欲望に正直なんだよ。欲しいもの、手に入れたいものを目で追っちまうし、感情が顔に出やすい。人を喜ばせるものを作りたかったら若い女の反応を見たらいいんだ。女を昂奮させない菓子は菓子じゃねえ』

じいちゃんの亜樹さん評は手厳しく本質を突いていて、根底に流れる愛情にグッとくる。
『引き算ってものを知らねえ。臆病なんですよ』
『でも、逃げねえんです』

物語後半の亜樹さんに対するじいちゃんの叱咤激励は最高に良い。
『お子さまだな。だいたい、お前の菓子は厳しいんだよ』
『これもできます、あれもできますって主張ばかりで寄りそっていない。お前自身も一緒だよ。 ~中略~ 甘さっていうのはな、人を溶かすんだよ。ほっと肩の力を抜けさせる。 ~中略~
 相手の感じ方を想像して、旨みを感じさせる甘さをださなきゃいけない。  お前、祐介にとってそういう女だったと言えるか?』

主人公の亜樹さんは、周囲の人からは『一切の隙がない人、無駄な飾りが全くない人』『動きに迷いがなく的確で、なおかつ優雅』に映る。
一見、完璧で隙のないように見える亜樹さんが、じいちゃんをはじめとする周囲の人と関わる中で、自分でも気づいていない弱さに気づいて、他者との関わり方を見直していく。人間は一人では生きていけない。

ラストのばあちゃんのセリフは秀逸である。
『だって、亜樹ちゃんは自分から誰かを求めたことないでしょう。ほんとうの一人を少しだけ知ってみた方がいいと思ったのよ』
『一人でもいいなんて、覚悟じゃないわ。酔っているだけ。』

〇追記
 祐介の事務所の先輩、笹崎さんのキャラクターが好き。
 普段は素っ気ないのに、祐介が思い悩んでいるタイミングに、ほど良い距離感で、じんわりと温かい助言(つぶやき?)をさりげなく与えてくれる。
 こんな大人になりたい。

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