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読書メモ:天冥の標

小川一水著の大作SFです。10エピソード17冊。長大な作品でした。人類にかかわる物語に限っても800年間に起こる出来事を描いています。そして、この作品のスケールは人類という単独の種の物語を軽々と飛び越えます。

2冊目のエピソードが壮絶なパンデミックもので、ちょうど読んでいる期間中に新型コロナウイルス騒動が深刻化していたので、ある種の臨場感をもって読めました。作品の予備知識なく読んだので、なんてタイミングだよと思っていました。この作品全体を通してかかわってくる冥王班という病気は致死率、感染性ともに超絶高く、阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれていました。新型コロナウイルスに対する人々のうろたえようを考えると、実際に冥王班に近い感染症が発生するとつみますね。しかし小説では人類は生き延びます。冥王班にかかった人も小数ですが生き延びます。しかし彼らは自らが冥王班の感染源になってしまうのです。生き延びた感染者たちはどうなってしまうのか。彼らは悲劇の運命を抱えたまま、身を寄せ合って生きることになるのです。

呼吸や生殖の仕組みを作り変えてまでも新たな地平を切り開く気質のアウレーリア一統も大きな流れを作り出します。

人間に性的に奉仕することに喜びを感じ、性的な営みの中にある種の神秘的な境地を追い求める。そのように設計されたラバーズという存在が語られたエピソードは度肝を抜かれるシーンの連続でした。これほど大真面目に性を追求する作品を初めて読みました。

この世界の歴史の裏には何千年も前から隠れた地球外生命がいます。かれらの超長大なスケールのエピソードが語られる辺りは、かなりワクワクしましたね。

途中で新たなプレイヤー、新たな地球外生命もやってきますが、彼らのセリフまわしがとても絶妙で何度も爆笑しました。ただのお笑いキャラではないんですがね。

まあ、とにかくいろんなキャラクターがいるわけです。そのキャラクターたちが無茶苦茶をやり、もうほんとにひどい状況になります。

複雑な話過ぎてまとめようにもなんとも難しいのですが、この小説はあらゆる生命の賛歌だと思います。そういう風に読みました。

人間は1000年たっても人間で、同じようなことを考えて同じようなことをしている。身体っていうハードを変えようが、価値観っていうソフトを変えようが、人間は人間。知生体は知生体。っていうか地球外生命ひっくるめて仲良くしちゃえばいいじゃん。知生体みな人類、みたいな感じなんだから、同じ人間同士で差別したりしてどうすんの。それにしても生殖ってキセキだよ。エロ万歳。みんな幸せになろうっていう話。っていう部分もある。

10エピソード17冊の分量でしか語れない物語があります。長いし、つらいことも多いし万人におすすめできる本ではないのですけど、時間と体力と好奇心があったら手を出してみるのも一興だと思いますよ。



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