見出し画像

言うか言わないか?

「じゃあ、またね」

甘いものが苦手な彼はブラックコーヒーをカップに半分ほど残したまま席をたった。
甘いものが好物の私のカップにも、彼と同じブラックコーヒー。
彼と少しでも同じになりたくていつも真似して頼んでは、半分までしか飲めなかった。

最後までそんな癖が抜けないほど彼のことが好きだった。

LINEで約束した時から要件は分かっていた様な気がするけれど、重たい腰はまだまだ椅子に縛り付けられている。
「またね」の次がないことは分かってる。でもさよならじゃなかった、またねだったことに期待を残さずにいられない。こんなどうしようもない脳内会議を繰り返しては、さっきの瞬間がスローモーションみたいに何度も反芻する。
ぼーっとしながらふと浮かんできた。


私の恋の敗因は多分「言えなかった」ことだ。
いや「言えなくなった」ことか。


彼はいつでも私の話に耳を傾けてくれる大人な人だった。
仲良くなったきっかけだって、当時のバイトの失敗で落ち込んでた私の話を聞いてくれたことだ。
彼はそこまで口数が少ないわけではないけれど喋るのは決まっていつも私だった。

もちろん私もそれが良いと初めから思ってた訳ではないんですよ?
2ヶ月記念日には私の話ばかりなことで迷惑をかけていないか心配になって素直に尋ねた。
7ヶ月記念には私の気持ちばかり伝えていて彼の気持ちがわかりづらいと一方的に怒った。
1年と少し経った頃には、自分のことばかりなことで自己嫌悪に陥って泣きながら相談もした。

いつでも彼は
「僕が聞きたいから、聞いてるんだよ」
と優しく答えてくれた。

聞き上手な女が良いといろんな恋愛書に書いてあったけれど、話したい彼女と聞きたい彼氏。
そんな私達なりの形が確かにあって、それでうまくやっていた。

そうだったはずなのになぁ。

きっかけは大したことじゃなかった、思い出せもしない。
私は少しずつ自分のことを話すのをやめた。

会う頻度が減ったこともあるだろうけれど、なんだか気持ちを伝えて揉めたりするのが嫌になってしまった。会うたび、話すたびに世間話や仕事の近況報告を伝え合う。それだけ。
いつの間にか私の一番の理解者が彼ではなくなった、むしろ彼は最後の時には私の最近の半分も知らなくなっていただろう。

最後の時だって別れたくないと思っていたはずなのに何にも言えなかった。
もし、なんて考えても仕方がないと分かっているけれど

「もし今でも変わらず彼に何でも話していたら」

そう考えながら、誰もいなくなった前の席をぼうっと見つめる。
ブラックコーヒーはしばらく飲めそうにないから誰か友達でも読んで自分の気持ちでもさらけ出してみようかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

たまたま車の中で聞いたカナブーンのないものねだりから、ふと「話す女」と「話さない女」はどちらが正解なのか気になってしまって書きました。私の未来予想にならないように気を引き締めて彼を大切にしていこうと思います。

今日はここまで☺︎

Honami





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?