分子生物学と、中が見えないレストラン
分子生物学は偉大だ。
1950年代以降、爆発的に進歩した分子生物学は、
生物学だけでなく、医療や、薬の開発まで、
すっかり変えてしまった。
黎明期の分子生物学は、
未知の「研究領域」だったけど、
今や分子生物学は、
使って当たり前の「ツール」だ。
今どきの、生物学や医学の研究論文のほとんどが、
何らかの形で生体内の「分子」を扱ってるけど、
だからといって、
「分子生物学的な手法を使って研究しました!」
なんてわざわざ書いてある論文はない。
それぐらい、当たり前のアプローチになってしまった。
でも、別に難しく考える必要はない。
分子生物学は、意外と単純なアプローチだ。
狙った遺伝子を働かなくする、という手法なんだ。
* * * * *
厨房の様子が見えないレストランがあったとする。
厨房の中は見えないけど、
① コックさん A と、コックさん B のふたりがいる。
② 料理は、カレーライスと、チャーハンの2種類。
ということは分かっている。
どちらがカレーライスを作っているか、
厨房の中を見ずに調べられるだろうか?
分子生物学的なやり方はこうだ。
開店時間前のレストランの裏口で待ち伏せしていて、
コックさん A が出勤してくるところを捕まえてしまう。
コックさん B は、いつもどおり厨房に入ってもらう。
開店後に、レストランでカレーライスと、チャーハンを注文する。
すると、チャーハンは出てきたが、カレーライスは出てこない。
それで、
「コックさん A は、カレーライスを作っていたんだな」
と分かる。
また別の日にコックさん B を捕まえておく。
すると今度は、注文してもチャーハンが出てこない。
こうして、
コックさん A:カレーライス
コックさん B:チャーハン
という担当なんだな、と分かるわけだ。
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実際の分子生物学も、こんな感じ。
ある遺伝子に狙いを定めて、
そいつの働きを邪魔する。
すると生物は、何かができなくなる。
何ができなくなるかを、注意深く調べて、
その遺伝子の働きを推測していくんだ。
病気の人と、そうでない人を比べて、
働きが違っている分子を探す、っていう手もある。
病気の人の体の中で、働きが強くなりすぎている分子が見つかったとする。
そこで、その分子の働きを抑えるような物質を探し出してみると、それが病気に効く薬になったりする。
こうして、「分子を狙う」というやり方は、
医療に大革命を起こした。
単純だけど、とても強力なアプローチなんだ。