ウイルスに抗生物質が効かない理由

病気になったり、手術をした時に病院で処方される「抗生物質」。

「抗生物質は、ウイルスには効かない。」
という話を聞いたことがある人は多いと思う。

なんで効かないんだろう？

　抗生物質はバクテリアをやっつける薬で、
　ウイルスはバクテリアとは違うんだから、
　抗生物質はウイルスには効かない。
と言ってしまえば、それまでだ。

この説明は、間違ってはいない。

でも、僕が「らくがき生物学」でやりたいことは、

生物学をもうちょっとだけ詳しく
でも難しくならないように
説明してみたい

ということだ。

その方が、生物学が
（そして科学が）
もうちょっと楽しくなると思う。

なので今回は、
「抗生物質は、なぜウイルスに効かないのか？」を、
　もうちょっとだけ詳しく
　でも、なるべくカンタンに
書いてみたい。

バクテリアの中で起こっていること

まず、バクテリアの中で起こっていることを、
ざっくり書いてみる。

バクテリアの中には、ゲノムDNA がある。
DNA には、遺伝子の配列が書かれている。

そして、DNA から RNA に、遺伝子の配列が写し取られる。

すると、RNA に、リボソームがやってきて、
　リボソームでは、RNAに書かれた通りの順番で
　アミノ酸が一列に数珠つなぎにつながれる。

そして、アミノ酸の数珠が、立体的に折りたたまれて、
・・・タンパク質のできあがり！

できあがったタンパク質は、
　バクテリアの部品として、
　バクテリアの中や、表面で、いろんな働きをして、
　バクテリアの活動を支える。

こうして、バクテリアは生きていけるんだね。

抗生物質がバクテリアをやっつける方法

では、こんなバクテリアを、抗生物質はどうやってやっつけるんだろう？

そのやり方は、大きく分けると、
　1) バクテリアがタンパク質を作るのを邪魔する。
　2) バクテリアがRNAを作るのを邪魔する。
　3) バクテリアが細胞壁を作るのを邪魔する。
の3つ。

1) ある種類の抗生物質は、バクテリアのリボソームで、タンパク質が数珠つなぎになるのを邪魔する。

するとバクテリアは、
　タンパク質を作れなくなって、
　・・・死んでしまう。

2) バクテリアのゲノムDNA から RNA に、遺伝子の配列が写し取られるのを邪魔する抗生物質もある。

するとやはりタンパク質を作れなくなって、
　・・・バクテリアは死んでしまう。

3) あと、
　細胞壁っていうのは、
　バクテリアの細胞膜の外側にある、
　細胞膜よりちょっと厚めの壁。

この細胞壁の材料を作るのを邪魔する抗生物質もある。
邪魔されると、
　バクテリアの外側に細胞壁がなくなって・・・
　・・・やっぱりバクテリアは死んでしまう。

こういうやり方で、抗生物質は、バクテリアをやっつけるんだ。

ウイルスの増え方

ところで、ウイルスには「殻」と「遺伝子」しかない。

こんな超シンプルなウイルスが、
　どうやって僕たちの細胞に感染して、
　　増えていくんだろう？

ウイルスは、
まず、細胞の表面に取りついて・・・
　それから、細胞の中に侵入する。
（侵入のし方は、ウイルスの種類によっていろいろなので、この絵のとおりじゃないこともある。）

侵入したウイルスは、
　細胞の中に遺伝子を放出して、
　細胞の中で自分の遺伝子をたくさんコピーする。
（これも、ウイルスの種類によって、細胞の核の中でコピーしたり、核の外（細胞質）でコピーしたり、いくつかパターンがある。）

あと、遺伝子のコピーとは別に、
　ウイルスは細胞のリボソームに RNA を送り込み、
　リボソームをハッキングして、
　ウイルスの部品となるタンパク質をたくさん作らせる。

こうして、細胞の中で、
　たくさんのウイルスの遺伝子と
　たくさんのウイルスの殻
が用意されて、

そして、
　ウイルスの殻の中に、
　ウイルスの遺伝子が収まって、
　　ウイルスの完成！

完成したウイルスは、
　細胞の外に出てきて、

外に出てきたウイルスは、また別の細胞に取りついて・・・

というサイクルが、繰り返される。

このサイクルが、
　「ウイルスに感染している」
っていうことだ。

だから抗生物質は・・・

さて、このサイクルを、もう一度よく見て欲しい。

このサイクルのどこにも・・・
　「バクテリア」
が出てこない・・・！

僕たちのような真核生物に感染するウイルスは、
バクテリアがいなくても、
どんどん増えていける。

つまり、
　抗生物質がバクテリアをやっつけても・・・
　　ウイルスはへっちゃら！

だから
抗生物質は
ウイルスには効かない

っていうわけだ。

いつものことならが、
以上のストーリーは、詳細をかなり省いてるけれど・・・
だけど大筋では、こういうことだと思う。

それでも抗生物質が必要なこともある

でも、僕は、
「どんな場合でも、ウイルスに感染している患者さんに抗生物質を処方するのは意味がない。」
と言いたいわけじゃない。

意味がある場合もあるようだ。

僕は医師ではないし、医療に対して意見するつもりはない。

今回はただ、
「抗生物質はなぜ、ウイルスが増えるのを阻止できないか？」
について、生物学的な観点から書いてみた。

この点は、ご了解いただきたい。