005_表紙

細胞のエネルギー源「ATP」が作られるしくみを、思いっきりシンプルに書いてみる

ATPは、細胞のエネルギー源。このATPが作られるしくみを、思いっきりシンプルに書くとどうなるか、やってみたいと思う。

教科書では、細胞の中でATPが作られるしくみについて、かなり複雑に書かれていることが多い。

無理もないと思う。

ATPを作るしくみには、多くのタンパク質が寄り集まってできた巨大な複合体が、いくつも関わっている。それを詳しく書いていけば、そりゃ複雑なお話しになるはずだ。

でも、このしくみの本質は、とてもシンプルだ。

例えるなら・・・
① エンジンでポンプを回して、水を汲み上げ、
② 汲み上げた水が落ちてくる勢いで、水車を回し、
③ 水車が回る力で、発電機を回して発電する。
 ・・・という感じだろうか。

細胞の中にミトコンドリアがあって、ATPはミトコンドリアで作られる。ミトコンドリアは外側の膜と内側の膜の二重構造になっていて、ATPを作る装置は内膜の上にある。

内膜の上には、電子伝達系と、ATP合成酵素がある。

001_ポンプと合成酵素

ATP合成酵素のかたちは、とてもおもしろい。

ATP合成酵素は、
Fo(エフオー)と、F1(エフワン)
という、ふたつのパーツでできている。
Foが内膜に埋まっている。

002_ATP合成酵素

Fo も F1 も、筒みたいなかたちで、
1本の「シャフト」で連結されてる。
さらに、Fo と F1 は外側で「支柱」とくっついている。
Fo がシャフトに力をかけて回すと、F1 の中でシャフトが回る。

そして実は、ATPを合成する装置の本体は、F1 だ。

さて、こんな Fo と F1 と、電子伝達系で、どうやってATPを作るのか?

電子伝達系は、食べ物から得られたエネルギーを利用して、膜の内側から外側へプロトン(水素イオン)を汲み出す。

003_プロトン汲み上げ

すると、膜の外側の方がプロトンが多くなるので、プロトンが膜の内側に入ろうとする圧力が生まれる。
これは、水を高い所に汲み上げると、水が低い方へ落ちようとする圧力が生まれるのと同じだ。

プロトンは、膜の外側から内側へ入ろうとする。
でも、膜はプロトンを通さない。
どこを通るのか?
Fo を通る。

004_ATP合成

プロトンが F0 を通り抜けるエネルギーで、シャフトが回る。
シャフトの回転は、F1 に伝わる。
F1 の中でシャフトが回転すると、そのエネルギーで ATP が作られる。
 ・・・っていうわけだ。

もう一度、3段階の例えを見てみよう。

① エンジンでポンプを回して、水を汲み上げ、
② 汲み上げた水が落ちてくる勢いで、水車を回し、
③ 水車が回る力で、発電機を回して発電する。

これを、細胞の中で起きていることに置き換えていくと・・・

①  電子伝達系は、エンジンとポンプを合わせたようなものだ。
エンジンの中でガソリンが爆発するエネルギーが、
電子伝達系でいうと
「食べ物から得られたエネルギー」
に相当する。
そしてエンジンでポンプを回して水を汲み上げるように、
電子伝達系はプロトンを膜の内側から外側に汲み出す。

② 汲み上げられた水が低い方へ落ちるように、
膜の外に汲み出されたプロトンは、膜の内側へ流れ込もうとする。
落ちてきた水は水車を回し、
流れ込むプロトンは Fo の中でシャフトを回す。

③ 水車が回る力で、発電機を回して、電力を作るように、
シャフトの回転をエネルギー源として、F1 はATPを合成する。

そして、作られたATPは、いろんな生命活動のエネルギー源として、細胞の中のあらゆる場所に配られる。
発電所で作られた電力が電線を伝わって、街中に配られるように。

どうだろう?
これが、僕たちの中にある「発電所」のしくみだ。
バクテリアも、クラゲも、
ヒマワリも、コオロギも、キリンも、
みんなこのしくみでATPを作って、
それをエネルギー源として生きている。

「なんて精巧なしくみなんだ!」
って思うかな?

「なんて回りくどいしくみなんだ!」
って思った人は、かなりスルドイ。

エンジンでポンプを回して水を汲み上げて落ちてくる水で水車を回してその回転で発電機を回して発電するなんて!

エンジンで直接発電機を回せばいいじゃん!

つまり、電子伝達系が食べ物から得られたエネルギーを使って、
「プロトンを膜の外に汲み出す」
っていう「仕事」ができるなら・・・
そのエネルギーで直接ATPを作っちゃえばいいじゃん!

なんで、こんな回りくどいしくみになってるんだろう?

生物は、無駄なことはしないと思うんだけど・・・


*  *  *  *  *

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

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