ああ、なんて素晴らしいセミオトコの世界
夏休みと言えばセミ取り。
合言葉のように、小学校の頃はセミ取りに夢中になった。
セミはおおよそ10年ほどを年間を幼虫として地中で過ごす。羽化と同時に地上に出て7日間程度、成虫としてその命を全うする運命だ。(諸説あり)そんな貴重な7日間を過ごしているセミを捕まえて喜んでいた子供時代のわたしは、とんでもない遊びをしていたものだなと、夏にセミの大合唱を聞くたび思う。
今年もそうやってセミに思いを馳せながら帰路についていた暑い夏の夜のこと。
帰宅してからテレビを付けた。
そこで流れていたドラマ、それが『セミオトコ』である。
周りから存在を忘れられてしまうほど内気で冴えないアラサーのOLのもとに、ひょんなことから命を救われた『セミ』が男の人間の姿になって恩返しにやってくるという、セミの恩返し物語である。
ヒロインであるOLが住むのは都内でも比較的緑の多い国分寺で、ちょっと古めかしいが可愛らしいアパートに、クセの強い大家と訳ありな住人たちが暮らす。
ヒロインも含めて、クセが強くなった理由であろう住人たちの心の傷を、セミオトコが、セミならではの視点で笑い、ときにその素っ頓狂な行動で周囲をかき混ぜながらも、いつのまにか癒やされていく。
劇中のセミオトコは、見てくれは人間の男子な訳だが、中身はセミである。
セミオトコに扮する山田涼介の砂糖を吐いてしまうほどの王子様ぶり(ものすごく褒めている)についつい忘れるのだが、彼はセミである。
そう、忘れた頃に本物のセミよろしく木に停まって正しいセミポーズをしている、紛れもないセミなのだ。
セミは数年に及ぶ潜りの後、最後の数日間を土から出てミンミン過ごす。
セミオトコもアパートの敷地内の土で6年を過ごし、羽化したあとの7日間だけ、人間の姿で現れる。つまり、8日目には死んでしまうはずだ。
かけがえのない7日間でアパートの人々と心を通わせていく過程でセミオトコも、徐々に7日間を終えることが惜しくなっていく。
いったいセミオトコはどうなってしまうのだろうか…。
今の時点(8/19時点)で4話まで放送されている進行中のドラマゆえに、結末はまだ分からない。残された3日間を見守るしかない一視聴者である。
それにしても、そんな儚いセミオトコの物語は、大量にセミ取りをしていたかつての自分と、大人になった現在のわたしに「もっと毎日を大事に生きなさい」と訴えかけてくるようだ。
地中の6年間を、わたしたちが母親の胎内にいる期間と同様に考えたなら、人生はたった7日間ということになる。
セミオトコはドラマの中で何度も「なんて素晴らしい世界だ」と叫ぶ。
6年の月日の後、ようやく日の目をみた7日間はセミにとって、どれほど美しく見えるのだろうか。
そのストレートな言葉にグサリと心動かされているわたしは、セミオトコに罪悪感を感じる程度には、日々を生きることに真剣になっていないのかもしれない。
しかしだからこそ、この物語を見届けた後には「なんて素晴らしい世界だ」と叫んでいる自分を期待したい。
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