わたしは少し贅沢なのかもしれないと気がついた
わたしはひとりの時間が好きだ。
なにも考えなくてもいいし、何かを考えてもいい。
お腹がへったらご飯を食べてもいいし、食べなくてもいい。誰にも邪魔されない。ひとりの時間。
土曜日まで一週間ほど、出張で岩手県に行っていた。
仕事柄、山の中とか大きい港なんかで仕事をすることが多い。今回も例にもれず三陸海岸のはずれにある港が仕事場だった。
泊まるホテルは現場から車でおよそ一時間半くらいのちいさな港町。現場は大抵へんぴな場所にあるので、近くにホテルがない。だから出張中は毎日山越え谷越え、現場とホテル間を行き来する。
長距離移動とホテル暮らしが続くと、体力や気力が削られ早く東京に戻りたい‥‥と感じる人も多いらしい。
ところが、わたしは出張が長くなっても、あんまり苦に思うことがない。
もちろん仕事は溜まるが、それを上回る開放感に癒やされる。
あーあ、東京戻りたくないなー。ずっとひとりで過ごしたいなー。
どれほど人と関わるのが苦手なのか‥‥と自分でも思うが、ひとりが好きなのだから仕方がない。
仕事が忙しくなればなるほど、出張が増えれば増えるほど、自分は人嫌いなのだろうかと考えるようになった。
そんな若干厭世的な気分で今回も出張最終日を迎えたが、帰り際これまでとは少し違った気持ちに気がついた。
それは土産を買うタイミングだ。
道の駅や空港なんかで、珍しい品物をみると会社の人や友達に買っていこうかな、と思う。
そうすると心は自然に東京へ向う。
仲のいいあの子は甘いものが好きだけど、先輩はしょっぱいお菓子のほうが好き。ご当地でしか買えないお菓子を集めるのが趣味なあの子に何か買ってあげたいな。そういえば弟に最近会ってないから、お土産を口実に会いにいこうかな。
それまで全く忘れていた、東京に暮らす人たちのことを考え始める。
あ、わたしちゃんと周りの人たちが好きなんだなぁ。
そう実感して、心がじんわり温かくなっていくのが分かった。
ひとりの時間が長ければ長いほど、人と会うのが楽しみになる。人と会う機会が多ければやっぱりひとりの時間が恋しくなる。
わたしは少し贅沢なのかもしれない。
小さくて当たり前の幸せを幸せだと感じ続けるのは難しい。
そんなわたしにとって、出張は人の温もりを思い出させてくれる時間になった。
だから今日からのわたしはひとりが好き。
だけど同じくらい、人が好き。
そのバランスと当たり前の幸せを忘れないでいたい。
編集:香山由奈
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