悲しみの『ルンバ』

なぜか我が家に

『ルンバ』がやってきた。

そう、勝手に掃除してくれる

あの『ルンバ』である。

蒸留器を長年使っていたら

業者がただでどうぞと持ってきた。


部屋の片隅で休んでいる

『ルンバ』のスイッチをオン。

巣から離れて動き出す。

羽のような手を

バタバタ煽りながら

くるくる回って動く。


そのうちにコンと壁に衝突し、

すっとバックしてまた動く。

その感じがまさにうちの愛犬。

白内障で目が見えなくなり、

くるくる回りながら歩いては

部屋の壁にコンと頭をぶつける。


頭をぶつけて自分の位置を知る、

その姿が実に痛ましい。

老いた我が愛犬が可哀想になる。

妻は『ルンバ』が死んだ我が家の

愛犬の最後の姿に重なるのだ。

「見ていられないの」と嘆く。


『ルンバ』はもはや掃除機でも

単なる家電などではない。

生きた動物なのである。

『ルンバ』は生きている。

そうとしか思えない動きなのだ。

壁に当たる悲しい生き物なのだ。