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CARMENCITA Film Labにフィルムを出してみた

1. はじめに

普段から親しんでいるフィルムカメラでの日常の撮影。今回は撮り終えたフィルムを、スペイン・バレンシアにあるCARMENCITA Film Labに現像とスキャンを依頼した体験をシェアします。なぜスペインまでフィルムを送ろうと思ったのか。実際に決心してから現像済みネガフィルムが戻ってくるまでのプロセスを、そのままお伝えできればと思います。

2. CARMENCITA Film Labとの出会い

ラボを知ったきっかけ

どうやって知ったかは正直はっきり覚えていません。おそらく「X」で気になったフィルム写真の現像ラボとスキャン方法を調べているときに行き着いたのではないかと思います。その後、2024年12月にフォトグラファーの石橋純さんの個展へ伺った際、「CARMENCITAおすすめですよ」と純さんから直接教えていただきました。さらに偶然その場に居合わせた、同じくフォトグラファーのSyuheiinoueさんも「おすすめ」とおっしゃっていたので、それが大きな後押しになりました。

なぜCARMENCITAを選んだのか

尊敬するお二人から同日におすすめされたことはもちろん、ラボで仕上げられた作例の雰囲気が自分の好みに合っていたからというのが最初の理由です。決め手になったのは純さんの「意外と早く対応してもらえますよ」という言葉。撮影したら早く見たいものですし、送る本数にもよりますが、フィルム10本の場合はだいたい7〜10日ほどでスキャンデータが送られてくるとのことでした。海外、しかもスペインまで送ることを考えると「確かに早いかも」と思い、群馬に住む私にとって、120フィルムの現像はもともと大変だったこともあり、「それくらいならぜんぜん待てる」と感じました。

フィルムを出すことに決めた一番の理由

フィルム写真を嗜んでいる方ならご存じのとおり、フィルムの現像とスキャンはラボによって仕上がりが異なります。そのため、写真のクオリティが撮影者の腕なのか、それともラボの力量によるものなのかが曖昧だと感じていました。そこで、多くの写真家が利用するラボを通すことで、自分の“いま”の実力を客観的に把握できるのでは?と思ったのが最大の理由です。
そして結果はというと、苦い思い出になるほど自分の力不足を痛感しました。被写体にしっかり向き合わず、その場で良いと思ったものを瞬間的に撮ってしまっているなど反省点が多々ありました。フィルムを始めてちょうど一年ほど経ったタイミングでしたが、今後の見通しと合わせて客観的な欠点を認識できたのは大きな収穫だと思っています。

3. まずは結論

ここから先は実際のプロセスについて詳細を書くため、少し長くなってしまいます。そこで先にメリットとデメリットをまとめておきます。「CARMENCITA Film Labってどうなの?」「やりとりは面倒じゃない?」といった疑問を手短に知りたい方は、以下のメリット・デメリットだけでもある程度参考になると思います。興味があれば、このあとの詳しいやりとりについても読み進めてみてください。

⭕️ メリット

1. 高品質なスキャンデータ(JPEG or TIFF)の入手
- 高解像度(最大で5000×6500pxなど)でのスキャニングが可能
- プロの写真家が求めるクオリティに応えているラボなので、SNSや展示、印刷物など幅広い用途で使えるデータが得られる
2. 海外トップクラスのラボを通して仕上がりを客観視できる
- 多くのプロ写真家が利用しているラボのフィルターをかけることで、自分の写真の「撮影力」「構図力」「露出管理」の長所・短所がはっきりと見えてくる
- 「撮影側の実力」と「ラボの力」を切り分けて把握できるため、今後の課題も把握しやすい
3. サービスのコミュニケーションが丁寧かつスムーズ
- 提携先のBOOK AND SONSを通じて日本語だけでやりとりが完結する
- CARMENCITAから直接メールが来る際も日本語で進行状況を案内してくれる(海外ラボ特有の言語の不安を感じにくい)
4. 好みに合わせた仕上がり調整が可能
- 参考画像を送れば色味やトーンの要望を伝えられるため、「自分のイメージ通りの色」に近づけてもらえる
- 依頼のたびに微調整してもらい、継続的に自分好みの仕上がりを追求できる
5. フィードバック重視の姿勢による学習効果
- スキャンが完了してデータが届いた後もフィードバックを求めてくれるため、スキャニングや現像手法への理解が深まる
- 自身の撮影スタイルやテーマの伝え方など、より良い写真を撮るためのポイントが見えてくる

✖️ デメリット

1. コスト面
- 国内ラボと比べてもやや高額
- 例えば120フィルムを複数本一度に依頼しTIFFファイルでのデータ納品を指定した場合、金額はそれなりにかさむ
2. 一定の時間がかかる
- スキャンデータは1〜2週間程度で届く場合が多いが、ネガフィルム返送には1か月前後かかることもある
- 撮影から現像・スキャン・返却までのタイムラグを考慮する必要がある
3.ラボ独自の色味が出る
- CARMENCITA Film Labの持ち味でもあるが、海外ラボ特有の発色やコントラストに仕上がる傾向がある
- 好みの色合いであれば大きなメリットになる一方、自分の想定よりも色味が変わる可能性がある
4. 海外への配送リスク
- 万が一の遅延や紛失リスクはゼロではない
- BOOK AND SONSを経由することで安全性は高まるが、国内のラボに比べると多少の不安が残る
5. 安易に何度も使いづらい
- フィルム価格の高騰も相まって気軽に頻繁に利用できるサービスではない
- その分「ここぞ」という特別なシーンや展示など重要な作品に適した選択肢とも言える


4. 現像・スキャンの依頼プロセス

初めて利用した2025年1-2月期の全工程

スペインのラボとはいえ日本語だけでOK!

ご存じの方もいるかもしれませんが、スペインのCARMENCITA Film Labは日本のBOOK AND SONSと提携しています。つまり、BOOK AND SONSさんを経由すれば、すべて日本語で現像の依頼からクロージングまで完了できるのです。毎週金曜日に、前日18:00までに届いたフィルムをスペインへ送ってくれるため、日本国内のラボに送るのとほとんど同じ感覚で海外までフィルムを出せる、とてもありがたいサービスです(姉妹店であるTHE BOOK ENDへのフィルムの持ち込み期限は毎週月曜18:00まで)。

実際のプロセス

BOOK AND SONSさんのWebサイトにある該当ページに、大まかな流れがわかりやすく記載されています。細かな内容はそちらをご覧いただくとして、ここでは、私自身が体験した「申し込み〜フィルム返却まで」を時系列に沿ってご紹介します。

※今回はすべての工程を国内にて郵送でやり取りした場合のプロセスをご紹介します。BOOK AND SONSさんへ直接フィルムを持ち込んでの利用・お支払いも可能ですので、お近くの方はぜひ活用ください。
※以下カッコ内の日にちは申込日を起点とした場合の経過日数です。

❶申し込み(0日)

BOOK AND SONS Webサイト内にオーダーフォームのリンクがあります。リンク先はGoogleフォームになっているので必要事項を記入します。なおオーダーシートをプリントアウトし、直接記入してフィルムとともに郵送することも可能です。

❷発送(1日)

撮影済みフィルムをBOOK AND SONSへ発送します。Googleフォームで申し込みを行った場合は、フォーム送信日と名前をメモに書いてフィルムと一緒に送ります。

※郵送するフィルムは水濡れ防止のため必ずジップロックやビニール袋などに入れてください。
※紛失などがおこらないよう、ヤマト宅急便コンパクトやレターパックなど追跡のできる輸送サービスをお勧めいたします。
※送料はお客様のご負担となりますのでご了承ください。

BOOK AND SONS / Webサイト該当ページより注意事項を抜粋

❸支払い(2日)

BOOK AND SONSから「フィルム受け取り完了」の連絡とともに、クレジットカード決済用のURLが届くので、速やかに決済を行います。ちなみに決済サービスはSquareです。

❹ラボ到着と仕上がり日のお知らせ(8日)

スペインのCARMENCITA Film Labから直接メールが届きます…しかも日本語です↓

※実際に送られてきたメール本文画像

フィルムが無事到着したこと、そしてスキャン画像の完成予定日を丁寧に知らせてくれます。利用者目線でとても安心感があります。さらにこのメールには画像アップロード用のリンクも付いていて、好みのスタイルに仕上げてもらうための参考画像を送ることも可能です(私は初めての利用だったので今回は何も送っていません)。

❺仕上がり・スキャンデータのダウンロード(14日)

予定日にスキャン画像のダウンロードリンクが送られてきます。メール本文は英語ですが、これはデータ転送サービス(WeTransfer?)の仕様なので仕方ありません。嬉しいのは、メール本文で今回の写真について言及があること↓

※実際に送られてきたメール本文画像

ブルー・マンデーにぴったりの、本当に素晴らしい作品ですね!
全体的に露出がしっかり合っているのでとてもきれいな色が出ています。ただ一部に露出不足のコマがあり、その場合はコントラストが強くなり、特にシャドウ部分で粒子が目立つかもしれません。でも全体的には完璧ですよ。
シャドウとハイライトの両方から最大限の情報を引き出しつつ、各シーンの光や露出を尊重して統一感を持たせました。ご依頼フォームでご要望いただいたとおり、最も自然なルックに仕上げるために色カブリを調整し、使い勝手の良いデータを提供しています。
この仕上がりを気に入っていただけると幸いです!

ちなみに文章中「注文フォームでリクエストされたように」とありますが、前述のとおりリファレンス画像は送っていないため、このリクエストは「Neutral(ニュートラル)」という仕上がりを指していると思われます。

❻フィードバックの催促(15日)

スキャン画像が届いた翌日には「FEEDBACK」と題したメールが届きます。常にサービスを改善しようとする姿勢に好感が持てます。

※実際に送られてきたメール本文画像

❼ネガフィルムの返却(32日)

日本を出てから28日後、およそ1ヶ月の長旅を終えて現像済みネガフィルムが戻ってきました。

レターパックライトに封入され届けられた現像済みネガフィルム

スキャンデータが届いたタイミングは予想より早く驚きましたが、返送はやはり時間がかかりますね。とはいえ、フィルム写真は最終的にデジタルデータで共有・管理することが多いと思うので、ネガが返ってくるまでの期間はそこまで気にならないかもしれません。

透明なネガシートに封入されていました

5. 現像・スキャンサービスの費用

そして、無視できない要素のひとつがコストです。

出典:BOOK AND SONS|Webサイト内「新料金(2023年12月15日から適用)」

今回私が初めて送ったのは「120ネガフィルム×8本」。スキャンサイズは最大のXXL(5000×6500px)で、TIFFファイルは依頼しませんでした。
その結果、総額 25,230円(サービス代 3,100円×8本=24,800円、返送料 430円)。決して安価とは言えませんが、安心感のあるサービスや素晴らしいスキャニング、そして前向きなサービス改善への姿勢を考えると、このくらいの費用は必要だとも思います。コストと捉えるか投資と捉えるかは人それぞれですが、私自身は「自分の現在地を把握し、欠点や伸びしろが見える」ことに価値を感じているため、当然未来への投資だと考えています。

6. まとめ

かなりボリュームのある内容になってしまいましたが、この体験記を書こうと思ったのは「多くの方にまずは一度利用してみてほしい」と強く感じたからです。

  • 写真家が活用するフィルムラボを利用して普段とは違う風合いのスキャン画像を楽しんでほしい

  • おそらくその体験が未来志向の良い刺激につながる

  • 素晴らしいスキャニングを体感し、将来のセルフスキャンの糧にしてほしい

  • 「撮る」「見る」だけではない「魅せる」手法を体験してほしい

  • フィルムだけではなくデジタルでのレタッチにも良い学びがある

これらの魅力を感じたからこそ、一度は体験していただきたいと思っています。最近はフィルム代も高騰していますし、私も毎回CARMENCITAを利用することは想定していません。でも特別な写真や展示用の写真が撮れたときなどに、思い切って利用するのも良いのではないでしょうか。

まだまだフィルム初心者の私ですが、これからもいろいろなサービスを活用しながらフィルム道を楽しんでいけたらと思います。ぜひみなさんも一緒にフィルムライフを楽しみましょう!

7. 実際のスキャン画像

最後に、今回初めてCARMENCITA Film Labを利用して現像・スキャンしてもらった写真を何枚か紹介します。ご参考までに、どうぞご覧ください。

Zenza Bronica GS-1|ZENZANON-PG 100mm F3.5
Kodak EKTAR 100
Zenza Bronica GS-1|ZENZANON-PG 100mm F3.5
Kodak PORTRA 160
Zenza Bronica GS-1|ZENZANON-PG 150mm F4
Kodak PORTRA 160
PENTAX 67|SMC PENTAX 6x7 105mm F2.4
ILFORD XP2 SUPER 400
PENTAX 67|SMC PENTAX 6x7 105mm F2.4
Kodak GOLD 200
PENTAX 67|SMC Takumar 6x7 200mm F4
Kodak PORTRA 16

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