ハプニングも感動に変えた、佐藤晴真(チェロ)のピアノ四重奏_2024年11月23日
5月に開催された「エトワール・シリーズ プラス 佐藤晴真(チェロ)Part.1」に続き、11月23日も、同じ彩の国さいたま芸術劇場で「Part.2 ピアノ四重奏」を聴いてきました。
私は佐藤晴真さんのファンなのですが、彼がソリストとしてオーケストラとともに弾くときの、場と空間を支配するような圧倒的な美しさとはまた一味違い、クァルテットは包み込むような音色の塊として耳に届きました。
その中でも、ソロが目立つ一瞬に圧倒的な存在感が閃光のように感じられ、鳥肌が立ちました。
弾き手の表情もやわらかかったモーツァルト《ピアノ四重奏曲第2番 変ホ長調 KV 493》に続くシューマン《ピアノ四重奏曲 変ホ長調 作品47》では、第2楽章の冒頭にとりわけ魅了されました。
当然ながら何の合図もなく、チェロとピアノが息を合わせて速いパッセージを弾きこなす箇所は、息をするのを忘れるほどの迫力があったのです。
ピアノの佐藤卓史さんと佐藤晴真さんの演奏は、ちょうど1年前に紀尾井ホールで聴いていたので、息が合うことは分かっていたのですが、それでもあれほどわずかな隙もなく、かつ繊細な美しさのあるパッセージには驚きました。
同曲第3楽章はチェロのソロが多く、まさに「アンダンテ・カンタービレ」と思わせる情に訴えかける演奏だったと感じました。
休憩を挟んで演奏されたのは、ウォルトン《ピアノ四重奏曲 ニ短調》。
佐藤さんの解説によると、この曲はウォルトンが16歳のときに書いたそうで、一貫したモチーフが「民謡風であったりROCK風であったりと、その表情を変え」ます。
楽章が進むにつれボルテージが高まり、第4楽章の怒涛のピッチカート……! というところでチェロの弦が切れるハプニングがあり演奏中断。
2曲目のシューマンを弾き始める前に妙に入念な調弦をしていたのは、弦に不調の予感があったからだったのですね。
和やかな空気の中再び第4楽章が演奏されると、そのまま一気にフィナーレとなりました。
「弦が切れたとき、パガニーニのように2弦でどこまで弾けるかトライしたものの、早々に止めました」
と苦笑いする佐藤さんのコメントには感心しました。
ヴァイオリニストの前田妃奈さんの演奏は、今年の頭に東京文化会館チェンバーオーケストラ「シャイニング・シリーズVol.13」で聴いて以来(この日の3曲目に演奏されたのは、ストラヴィンスキー「バレエ音楽『プルチネッラ』全曲(歌あり)」でした)。
希望に満ちた伸びしろを感じさせる、華やかな演奏だったと感じています。ヴィオラの中恵菜さんの演奏は初めて聴いたと思うのですが、とても落ち着いた音色で安心できました。
そしてピアノの佐藤卓史さんは、クァルテットを支えながらも実に聴かせる音色でした。
さて、個人的な喜びがあったのは、アンコールに演奏されたモーツァルト《ピアノ四重奏曲 第1番より 第3楽章》でした。
というのも、ちょうど会場に向かう間に聴いていた大好きな曲、ストラヴィンスキー《プルチネルラ》によく似ていると感じてシンクロニシティに心が躍ったのです♪
自宅からはちょっと(いえ、かなり)遠いのですが、改装後の彩の国さいたま芸術劇場は響きもよく、本当に行ってよかったです。