ラーメンズ小林賢太郎という天才
東京五輪の閉会式の演出家としても知られる、ラーメンズの小林賢太郎さんが芸能界から引退した。ご本人の強いご意向により、今後は作品の執筆・創作を中心に活動するとのこと。
所属事務所の退所に伴い、彼の著作物の保護を目的に立ち上げた会社も解散したーー。
このニュース記事を読んで、目を疑った。
しかし、所属事務所や相方である片桐仁さんが発表したコメントなどを読むうちに、徐々に事実を受け止めていく。
今後は二度とラーメンズのコントが見られない。それは筆舌に尽くしがたいほど残念だけれど、同時に、あの天才の事だから、次にどんな世界を見せてもらえるのかとワクワクする。
私はラーメンズ、ひいては小林賢太郎さんに影響を受けたと言ってはおこがましいほど、影響を受けた。
ラーメンズのコントに何度救われたかわからない。コントで感動して泣いたのも、恐怖したのも、驚きも膝を打つ快感も、あんな感情もこんな感動も、ラーメンズが初めてだった。
たとえば、海を一望できるタワーマンションの一室を舞台に繰り広げられる、家主である対人コミュニケーションが極端なまでに不得意なエリート会社員と、底抜けに明るいが10年間日の目を見ていない芸術家とのやり取りで構成される「不器用で器用な男と器用で不器用な男の話」。
顔や素性を一切公開していない小説家の下に原稿を取りに来た、編集者が巻き込まれる怪異を描いた「小説家らしき存在」。
田舎の母校で理科の教師になったジャックに呼び出され、東京から人知れず一時帰郷したプリマ。プリマが事件に巻き込まれていると自覚していく過程を、観客もリアルタイムに体験するサスペンスコント、「採集」などなど。書き切れないほど大好きな名作がある。
「ネイノーさん」も「アトム」も「鯨」も「王様」も、「斜めの日」も、「高橋」も大好きだ。
仕事がキツくて心が折れそうなときは、今も時々、早稲田大学の校歌に酷似した「金部(かねぶ)のテーマ」を歌って乗り切ろうとする。
あの時も、この時も、救われた瞬間や受けた影響を数えながら、「私も小説を書きたい!」と心を新たにする。
今日も明日も、ラーメンズが大好きです。
あまりにも潔くエレガントな引退の仕方への脱帽と、心からの感謝をこめて。
(写真は、「広告批評」の書影より)
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