老ぬいホーム見学物語②

「終活……?」
  ジンペーちゃんが尋ねると、セヨ様は大きく頷きました。
「人生ならぬ、ぬい生の終焉に向けて、よく考えるといいセヨ。新聞に載ってるセヨ」
  と、どこか得意げな表情のセヨ様が、老ぬいホームの広告を指しました。ちなみに、セヨ様は時々片言になるので、実際には「載ってる」が「のてる」と聞こえます。
 ジンペーちゃんは席を立ち、セヨ様に新聞を見せてもらいました。
 老ぬいホームとは、つまり、ぬいぐるみの為の老人ホームで、木々に囲まれた自然豊かな環境が魅力です。さらに、職員さんが24時間体制で見守ってくれるので、例えば、夜中に突然体調を崩してしまっても、心配はいりません。入居者同士のリクリエーションも充実しており、ふれあいスペースを利用して、季節のイベントやお茶会なども、のんびりと楽しむことが出来るのです。
  広告を眺めているうちに、ジンペーちゃんは少しずつ興味が湧いてきました。いつか来るお別れの日に備える為にも、1度見学に行ってみようと決意し、
「うんうん、僕ここに行ってみようかな」
 と、少し笑って言いました。
「あれれ、もしかして、ジンペーちゃんも老ぬいホームでお手伝いをするの?」
  他のテーブルから食器を下げてきたうさみちゃんが、ジンペーちゃんに尋ねます。
 ジンペーちゃんは、首を横にフリフリしながら、「違うよ、見学に行くの」
「あら、そうなのね。うさみは時々、みんなのお風呂ケアのお手伝いをしたり、お茶会に参加することもあるの。ジンペーちゃん、よかったら、一緒に行かない? うさみが、老ぬいホームの案内をしてあげるの!」
 面倒見の良いうさみちゃんが案内してくれるなら、安心です。本当は一人ぼっちでの見学が少し心細かったので、ジンペーちゃんはホッとしました。
「うむうむ、うさみ殿が一緒なら安心だな。よかったな、ジンペー殿」
 シャチさんはそう言って、ジンペーちゃんを胸ビレでなでなでしてくれました。
「老ぬいホームまでの旅行代は、かえるツーリストがお安くしとくけろよ」
 けろ子ちゃんがそう言って、ジンペーちゃんに名刺をくれました。
 それを見ていたほっきーも、
「ほっきーも頑張るほきほき!」
 と、けろ子ちゃんの隣でニコニコしました。
 セヨ様が早く新聞を返せと催促するので、ジンペーちゃんはお礼を言って、席に戻りました。
 そして、またシャチさんと少しおしゃべりをし、いつの間にか注文してくれていた2杯目のコーヒーを飲み終えると、2人はそろそろ「うさかふぇ」を出ることにしました。
 うさみちゃんと待ち合わせの約束をしていると、どうやらかえるツーリストに頼むほどの長旅ではなさそうです。
「それじゃあ、よろしくね。うさみちゃん」
「うん。またね、ジンペーちゃん。うさみ、駅で待っているからね」
 お店を出て、シャチさんとお別れすると、ジンペーちゃんは、お家までの道を走り出しました。
 うさちゃんのベーグルサンドも、ふわちゃんのコーヒーもとても美味しかったし、シャチさんや皆とのおしゃべりもとても楽しかったけれど、どうしても寂しくなったジンペーちゃんは、一刻も早くお家に帰って、持ち主のほみちにぎゅっとしたくなってしまったのでした。