内緒の富士山

電車で通勤しているとき、一瞬だけど大きな川がひろがり、その先にうっすらと富士山が見えるポイントがある。
私は毎回その瞬間を逃さないようにスマホや本から目線を離して、窓の外を見るようにしている。
富士山が見れても、見れなくてもどちらでもいい。とにかく見てみる。

ある朝、満員電車でそれでも富士山を見逃すまいとなんとか入り口付近に場所を確保した。

少し揺られ、富士山スポットにきた。
ふっと目線を窓にやると、横にいたおじさんが同じタイミングで顔をあげて、同じ方を眺めていた。

周りがスマホに没頭する中、私たちだけは窓の外にぽっかり頭を出した富士山をぼーっと見つめる。

名前も素性も知らないし、言葉も交わしてないけど秘密が共有できる友達ができたようで、なんだか嬉しくなった。

富士山を通り過ぎると、私たちはまた目線をスマホに戻した。