ちいさな歯の話⑤ 入院後編
再び看護師さんが現れ、棉を回収してくれた。痛みはほとんどなく、ただ段々と腫れてきて口の中がなんだか気持ちが悪かった。
またipadで動画を見ながら時々うたた寝を繰り返していたら、18時になっていて順番に夕食が配膳され始めた。
事前に読み込んでいた入院の栞的なものに「食事:刻み食」と書いてあり、想像できなさすぎて楽しみにしていた。いざ運ばれてきたご飯を見てみるとまず目に入るのは主食はお粥(300gもある、しかも無味)。副菜や果物は全て木っ端微塵に刻まれていた。8本も抜いたから弱って食べれないだろうと思っていたが、そんな心配とは裏腹にモリモリ食べられて自分でも驚いた。ただ、ほとんど味がなかったので、腫れてあまり開かない口を限界まで開いて副菜を食べ、できる限りの味の塊にし、お粥をかき込んだ。めちゃくちゃ辛かった。
食後どんどん腫れが悪化し、痛みも出てきたので鎮痛剤を飲みひたすら眠った。
気づけば朝で、再び刻み食を配膳されて、無味さとお粥の多さに泣きながら食べて、歯磨きをしようと洗面所に行き鏡を見たら左右両方の顎が腫れ上がり顔が真四角になっていて泣きそうだった。いざ歯磨きをしていると、抜歯した箇所を縫っている糸が歯ブラシに絡まり激痛で泣きそうだった。踏んだりけったりすぎる。
10時ごろ口腔外科での診察があり、同じ病室の方と一緒に診察室へ向かった。
傷口を消毒するとか言ってなんかよくわからない、紫色のまずい薬を患部に塗りたくられて、異常がないとのことで退院の許可が下りた。
部屋に戻る際に再び同じ病室の方と一緒になったので、「薬、まずかったですね」「お粥の量多すぎませんか?」など話しつつ、お互いのマスクを取って、真四角になった顔を笑いあった。
部屋に戻り、荷物をまとめて手続きを済ませ、退院した。
意外と元気だったので、姉と帰り途中の駅で落ち合ってマックでシェイクを飲み、ちょうどその日にできるパスポートを受け取りに行った。パスポートの写真と真四角になった顔が違いすぎたので、受け渡し係の人は写真と私の顔を10回ぐらい見比べて、「まあ、大丈夫です」となんとも微妙な感じで渡してくれた。
その後家に帰り、夜はたこ焼きパーティーをした。
これが間違いだった。
ふさがっていない傷口にソースは大敵だったようで、食べているうちは大丈夫だったけど、翌日腫れが悪化し、塩分にかぶれた痛みが口内に広がっていた。アホすぎる。
それからの日々はやや塩分を控えて、お酒も控えたヘルシーライフを心がけた。
が、私はご飯もお酒も大好きだ。花より団子である。
白馬の王子なんていいから、とびきり美味しい白馬の馬刺しでビールを一杯ひっかけたい。
その気持ちを押し殺しながら日々をやり過ごし、順調に回復していった。
今日でちょうど術日から1ヶ月がたつが、すっかり元気になった。
歯が結構なくなったので、噛みにくかったり、滑舌がやや悪くなった気はするが
ご飯も美味しいし、お酒も美味しいので日々ご機嫌に過ごしている。
ただ、まだまだ矯正の道のりは長い。
この先どんな困難が待っているか計りしれないので、美味しく食べれるときにたくさん食べて、困難に備えていようと思う。