住んではいない
元同居人含めて友人3人で住むルームシェアの話が没になった。
昨年、元同居人と再びルームシェアをしようと話していたところ、もう1人お互いの大事な友人を交えたらもっと楽しくなりそうだと話が上がり、誘ってみたところ軽々OKをもらった。
その後3人で夜な夜な武蔵小杉のガストで、住みたい家の条件を出し合って、みんなの理想の家像を固めた。悪巧みをしている子どもみたいにはしゃいで、ふざけて笑って、でもみんなが心地よい暮らしになるようにたくさん考えた。
ようやく方向性が固まり、ルームシェアを専門に扱っている仲介会社に相談しながら、本格的に物件探しが始まった。
けれど、物件は見つからず内見すらできずに惨敗に終わった。
なにしろ異性3人のルームシェアだ。私たちが思った以上にハードルが高く、断念せざるをえなかった。
同棲はハードルが低いと聞くけど、発展も後退もない友人という関係性の方が、よっぽど安定している気がしてならない。けれど、それがまかり通らないこともなんとなくわかっているので、当時は悲しさより、だよねー!という気持ちの方が大きかったような気がする。思い出すとなんだか悔しくてむしゃくしゃしてくる。
大人しくルームシェアを諦めて過ごしているうちに、一緒に暮らす話をしていた3人のうち2人がルームシェアを始めることになっていた。
ぼそっと「私も住みたいなー」と言うと、物件契約間近だった2人も一緒に3人で暮らせる物件を躍起になって探してくれた。
今度はいくつか物件が見つかり、内見まで漕ぎ着けたものの、みんなが心地よく暮らせるか聞かれると、即答できなかったので今回も泣く泣く見送ることとなった。
そして2人は引っ越した。
結構悲しくて、心を無にして仕事をした。数日うじうじしたけど、働いて食べてお風呂に入って寝てたら元通りになっていった。
フラットな気持ちに戻った頃に、2人の家に遊びに行くと、なんのおもてなしもなく、でもそれが私にとってはとても嬉しくて、人の家だけど床ごろんと寝転び、口元が緩んだ。いい家だねと何度も呟いた。
家を出る際に何故か合鍵をもらい、「いつでもおいで」と言われてまた口元が緩んだ。「行ってきます」と伝えて家を後にした。
一緒には住んでいない。でも「おかえり」と言ってくれる家が一つ増えた。
キーケースの中で、この家の鍵がお守りのように揺れている。