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ちいさな歯の話⑥

カレーが好きだ。
匂い、味、見た目、食べ終わった後の幸福感…全てにおいて完璧なご飯だと思う。

10歳まで住んでいた家は3階建てで、1階に曽祖母、2階に祖母、3階に私の家族が暮らしていた。

小学校から下校し、玄関の扉を開けた時、ふわりとターメリックの香りが漂ってくると居ても立っても居られず、2階の祖母の部屋にむかって階段を駆け上がり、16時そこらの時間におやつとしてカレーを貰った。

祖母のカレーは、辛口のカレー粉とローリエなどの香草を圧力鍋でぎゅっと煮ていて、一口食べると辛くて思わず口を開けるのだが、香草の香りが最後に喉の奥からかけ抜けていき、それはそれは美味しい。

おやつでは足りず、夜ご飯分にと深皿いっぱいにカレーをよそってもらい、3階に持っていき、夜ご飯を楽しみに宿題やらお風呂やらを済ませていた。

もちろん母のカレーも大好きだ。
具材をあらかじめ炒めたり、ネギの青い部分や梅干しなどと煮て丁寧に臭みをとった上で、中辛と甘口のルーを合わせて煮込んでいる。
仕込みの段階から野菜のもつ甘い香りが漂ってきて食欲をそそる。そこにルーを加えてとろみがつくのを鍋の中に顔を入れてみるのがなんとも愛おしい。
辛さはないものの、野菜のコクを甘いルーがまろやかに包んで、多幸感で思わず口角が上がる。

祖母、母と作り方は違うもののそれぞれのこだわりが詰まったカレーはどちらもとても美味しい。

今日は朝から母がカレーを仕込んでいる。

矯正を始めてからというもの、カレーの香辛料が矯正器具を黄色く染めてしまうのを懸念して好きな時にカレーを食べられなくなってしまった。
いや、カレーを食べる権利なんていつでもあるのだけど、食後とても自然に黄ばんでしまうことが恥ずかしくて避けるようになってしまった。

だけれども、月に一度矯正器具を調整する日に、黄ばんでしまった部材を変えられるので、その前日を狙ってカレーを食べる「カレーの日」が我が家に定着した。

一月に一回のチャンスだが、
焦らされたカレーほど美味いものはない。

最近何だか忙しくてヘトヘトだが、家にはじっくり煮込まれたカレーが待っている。今日の帰り道はいつもより少し早足になっている。


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