バンタンゲームアカデミーに通ってみた ~プランナー関連の話多め~
※1 この記事は私が観測できる範囲で可能な限り客観的に書いたものです。一部実態と異なる可能性がありますがご容赦ください。
※2 バンタンゲームアカデミー専門部の話であり高等部とは異なります。
※3 東京校及び大阪校の話が多いです。
バンタンゲームアカデミー(VGA)。それは東京・大阪・名古屋・福岡にまたがるKADOKAWAグループの専門教育機関。一体どんな講義をしているのか、どんな活動が行われているのか。
その謎を解明すべく、私はVGAの大阪校へと入学した……。
はじめに
前置き
この記事では、VGA東京校及び大阪校の利点や欠点、校舎間の違いについて主に記載する。
筆者は大阪校のゲームプランナー専攻に所属しており、プランナー以外の専攻や東京校については疎い部分もあるため、あくまで参考程度に読んで欲しい(名古屋校、福岡校については知らないことが多く記事から省略)。
また、私はVGAに入学して良かったと考えているので、そういう立場の人間が書いていると認識しておいてもらいたい。
前提
記事を読むにあたって事前に知っておいて欲しいことが一つある。
それは、VGAは学校法人ではなく企業法人だということだ。
社会的な立ち位置としては、プログラミングスクールや料理教室的なものだと思ってくれていい。しかしVGAに関しては、ゲーム業界で一定の知名度があり、専門学校と同列に扱われることが多いため、新卒として就活することに支障はなかったので、これを理由に入学を不安に思われる方は心配しなくていい。
VGAの利点
それではまず、利点から列挙していこう。
校舎共通
講師が全員プロ
学内説明会やスカウト展がある
短期のゲームジャムがある
Slackのワークスペースが全校舎共通なので学内向けの発信がしやすい
就活関係のイベントに参加する時は公欠が取れる
先述通り、VGAは学校法人ではないため講師に教員資格などの基準が適用されず、講師はみな現役のゲーム開発者が務めている。現役の方々が教えてくれるため授業内容の信用度はかなり高い。少なくともプランナー専攻では、校舎問わず優秀な講師がいたため本当に助けられた。
また、講師の中には個人ゲーム開発者もおり、彼らの生の声が聞ける機会もある。私としてはとても嬉しかったが、企業で働いている人以外認めないという人にとってはマイナスかもしれない。
スカウト展とは、生徒の展示した作品を企業の人が見に来て、評価されればその場でスカウトされる展示会のことだ。私は未経験で実態をあまり知らないためここでは詳細を省くが、知り合いにスカウト展経由で選考を進めた人が実際にいるので、悪いイベントではなさそうに思う。
短期のゲームジャムとは、2、3日間で行われるゲーム開発イベントのことで、VGAでは学校主導で定期的に開催がある。短期間とはいえ、チーム制作経験を積める機会なので、あるだけでも嬉しい。
Slackのワークスペースに関しては、チームメンバーを集めたい時などに役立つ。積極的に行動したい人にとっては有用な仕組みだが、そうでない人にとっては様々な情報が入ってくるため少し騒がしいかもしれない。
東京校
G-Labがある
授業でチーム制作できる
講師主導のサークルやゼミがある
勉強会がある
各ゲーム企業との連携が強い
カウンセリングを受けられる
G-Labとは、ゲーム制作活動団体の名称で、G-Labに所属した者は講師と密に連携を取りながらチーム制作を進めていく。その他授業でのチーム制作も講師陣の助けを得ることができ、かなり良い制作環境だと思う。
ただし、学生間のモチベーションやメンタル、能力の差には注意が必要だ。同じ専門学校に所属していても全てバラバラなので、まともにチーム制作が進まないことの方が多い。報連相の欠如、スキル不足、精神面の体調悪化、etc…。環境としては良いが、制作メンバー本人たちに何かしら事情があることが多いため、苦労することは多々あるだろう。逆に言えば、就活の面接でよく聞かれる「チーム制作で苦労したこと」はかなり話しやすくなるので、そういう意味ではオススメと言える。
その他は私も知らないことが多いので詳細を省く。
大阪校
自主的に学習する時間を確保しやすい
プランナー専攻の生徒数が少ない
私が知る限り、東京校と比較した時の大阪校独自の利点はこれだった。先ほど列挙した東京校の利点は東京校のみにあるものなので、他校舎には存在しない。貧相に見えるかもしれないが、私はこの2点について大きく評価している。
まず東京校では授業によるチーム制作がある分、拘束時間は長くなりがちだ。そのうえ誰と組むかは学校側が決めるため、望ましくない制作体制が築かれてしまうと時間ロスが激しくなる。反面、大阪校ではそういったことがなく、自分の就活準備にたっぷり時間を確保できるため、自走できる人にとっては良い環境だろう。
プランナー専攻の生徒が少ないという強みも大きく評価していて、講師の生徒一人一人に割ける時間が東京校と比べて段違いだ。どのぐらい少ないか、2023年度の生徒数をざっくり言うと、東京校は四十人前後であるのに対し大阪校は10人未満。
教室がガラガラだ。その分、講師からのフィードバックは手厚く受けることができ、私としてはとても恵まれた環境だった。もちろんフィードバックを受けるためには、生徒側自ら作品を見せに行かないといけないため、自主性が問われる環境だったが、私としては満足だった。内定を早い時期に獲得できたのもこういった環境のおかげだと思う。
なお、その他専攻の独自の強みについては私は知らないため、記載を省略する。これは強みがないという意味ではなく、私が把握していないという意味だ。
VGAの欠点
続いて欠点についても列挙する。
校舎共通
生徒のモチベーションや技術力がバラバラ
授業カリキュラムが校舎ごとにバラバラ
校舎間の紐付きが弱い
3DCGが弱め
ゲーム学部にサウンド専攻がない
生徒については、どこの学校でも言えることなので説明は省略する。
授業カリキュラムに関しては個人的に強く問題視していて、ホームページに記載されている授業が東京校では受けられても大阪校では受けられなかったりする。逆もまた然りだが、所属する講師にも左右されるところなので、仕方がないとも取れる。
なお、東京校と大阪校のプランナー専攻の授業の違いをざっくり記載すると、
東京校
ゲームプランナーとして働く上で役立つ知識を学ぶ。
大阪校
ゲームプランナーとして就職するために必要なことをとにかくやる。
というような感じだ。
これは私が情報収集をしたうえで感じた色の違いで、年が変われば講師も変わるので、あくまで2023年度の授業はそうだったと思ってもらえれば良い。どちらが優れているとするかは人の好みによるので一概には言えない。
校舎間の紐づきの弱さについてだが、これは個人的に勿体ないと感じていることで、校舎間を超えて連携……特にチーム制作をする環境があっても良いと思っている。もちろんオンラインでチーム開発をするのは難易度が高いので、あろうとなかろうと一緒かもしれないが、選択肢はあるだけ良いというのが持論だ。実際、私は訳あって東京校の人たちと繋がりを持つことができたが、その人たちに就活においてとても助けられた経験がある。企業に提出できるクオリティの企画書も、チーム制作の実績も、彼らがいなければ私には作れなかった。
3DCGが弱いという欠点についてだが、これは実際の周りの就職状況を見て思ったことだ。苦戦している人、病んでしまった人、次年度にまた就活する人、沢山いる。そして何より、グラフィックに関してはHALが強い印象が強く、HALと比べると見劣りするという意味で欠点として記載した。
※特に私はVGAの大阪校に通っているため、HAL大阪校と比較して述べている。
東京校
G-Labや授業で行うチーム制作の時期が悪い
G-Labと授業でのチーム制作は、動き出しのタイミングが殆ど一緒だ。特に授業の方は制作期間も短く、地獄のスケジュールが待っている。そして最もまずいのが、この忙しい時期が1月頃まで続くこと。G-Labの方は翌年度の東京ゲームショウ出展も見据えて動くため、更に長期間の開発が見込まれ、就活が本格化する時期とだだ被りする(特に大手)。つまり、早めに応募したくても準備する時間がないため、志望企業によっては就活で不利に働くだろう。
実例として、4月時点でのプランナー専攻における内定獲得者は1人しか聞かない。20人規模のクラスが2つあるプランナー専攻で1人だ。大手以外も2月頃から採用活動を始めている現代を考えると、良い数字とは言えない。6月ぐらいまでは就活本番なので、それまでには内定が続出すると思いたい。
大阪校
専攻をまたいだ連携がない
プログラマー専攻ではUnityよりも先にUnreal Engineを学ぶ
授業によるチーム制作や講師主導のサークル等がないため、他専攻の生徒と関わる機会が非常に少ないのが大阪校の欠点だ。故に自主的にチーム制作を進める時は他専攻のメンバーを集めるのに苦戦しがちである。とはいえ「Slackで募集告知を出す」、「学校のスタッフに依頼をする」などメンバーを募集する方法はいくらでもあるため、主体的に行動できる人は大丈夫だろう。
それよりも、プログラマー専攻がUnityより先にUnreal Engineを学ぶことに困らされた。Unityでのチーム制作が難しかったためだ。大前提として、初心者同士のチーム制作はUEよりもUnityの方がやりやすい。その理由は複数あるが、特に大きな理由は以下の二つだ。
UEは2Dのゲーム制作に向いていない
UEはPCの要求スペックが高い
上記理由から、初心者の学生が集まってチーム制作をする時にUEを使うのは非常に難しい。いきなり3Dのゲームを作るのは難易度が高いし、そもそも要求スペックを満たしたPCを所持していない者がいれば、学校のPC以外での作業ができなくなり進捗が遅れる。
短期のゲームジャムも、その辺りを考慮してUnityでのゲーム制作をすることが多いので、Unityが使えないプログラマーばかりなのはとても大変だった。UEに触れておいた方が良いということも分かるが、学生のうちにチーム制作経験を積むことを重視している私としては、先にUnityを勉強して後からUEを学ぶカリキュラムの方が良かったように思う。
さいごに
個人的見解
ここまでがVGAに入学した私が語る実情だ。守秘すべき内容には触れないようにしているため、抽象度が高くなっているが、入学を検討している方などは参考にして欲しい。
また、利点や欠点の記載数を見て、東京校の方が大阪校より良いように見えるかもしれないが、それは「人による」というのが答えだ。少なくとも私は大阪校に入学して良かったと思っている。超少人数の環境が合っていたし、学校の授業等に就活の時間を奪われなかったことも良かった。私は人一倍不器用なタイプなので、企画書を書くのに時間がかかるし、丁寧なフィードバックを受けないと理解できないし、どんなことも何度もやらないと成長しない。そんな私には大阪校の方が間違いなく合っていた。
という訳で、東京校と大阪校のどちらが良いか、そもそもVGAに入学すべきか、それは人によるという当たり前の結論になってしまう。そのうえで個人的な見解を述べると、大卒や社会人にはVGAの環境が合っている印象だ。授業コマ数の関係上、プライベートに時間が割けるため、独学などもしやすい。社会人になってから(もしくは大学を卒業してから)専門教育機関に入り直す人は、意欲高く行動できる人が多いと思っているため、そういう環境の方が就活に精を出しやすいだろう。そもそもVGAは社会人経験者や大卒が多く、似たような目線で話せる仲間が多いのも良い。
そしてチーム制作経験を積みたければ東京校、自分の時間を確保して自己改善や就活に集中したければ大阪校。そんな感じだ。
O-BARについて
少し話は変わるが、私はバンタンにて『O-BAR』というデジタルゲーム制作サークルを2023年4月に立ち上げた。チーム制作経験を積んで就職活動を優位にしようという趣旨で活動しており、東京校・大阪校・名古屋校・福岡校の垣根を超えてオンラインでチーム制作するサークルだ。チーム制作経験が積みにくい環境を改善するため運営している。去年は数十人の生徒たちがチーム制作経験を積むことができたので、立ち上げて良かったと思いたい。
来年度以降も、みんながスムーズにチーム制作できるよう環境を整えていければと考えているため、みなさんどうか応援して欲しい。まだまだ未熟で改善の余地があるコミュニティだが、だからこそやりがいもある。
という訳で、東京校以外に入学してもサークルに加入してくれれば就活前にチーム制作を経験できるよ、という宣伝だけはしておこう。講師によるサポートはないため、開発難易度は上がるが……。
余談
ゲーム業界を目指すだけなら、選択肢は色々ある。例えばゲーム開発環境のない大学に入ったとしても、近くの大学のゲーム開発サークルに声をかけて回ったり、Discord上で活動しているゲーム開発コミュニティ『スピカ』に加入して経験を積んだり、取れる手は様々だ。
プランナー志望であれば、『プラなろ』というネットコミュニティに入ってみるのも良い。現役の方々がいるので、企画書のFBや面接対策のサポートを手厚く受けることができ、専門教育機関に所属しなくても学べることは多いだろう。
プログラマーやアーティストの人も加入できるので、プランナーとチーム制作したい人は入る価値ありだ。
結局どんな環境になろうと「自分がどう動くか」が大部分を占めるため、自主的に行動できる人は専門教育機関に行かなくてもやれるし、それが難しければVGAに来ても就職できない。ゲーム業界は厳しい。でもだからこそ楽しい。みんな、頑張れ。
クレジット
見出し画像: みんちりえ( https://min-chi.material.jp/ )