PERCHの聖月曜日 53日目
●マース・カニングハム氏
今回、日本で披露する作品のひとつに、「シナリオ」があります。これは、世界的なデザイナーである川久保玲さんとのコラボレーションで実現したものです。
きっかけは、ある友達から川久保さんの大変シンプルなメンズスーツを贈られ、公演の挨拶の時に着たことでした。みんながとてもいいと言ってくれたので、川久保さんに「一緒に仕事ができないか」と打診しました。その後、彼女が「こういうものを作ったのでどうでしょうか」と、羽毛パッドの入った衣装を持ってきました。腰や肩、お腹が盛り上がったコスチュームです。ダンサーに着せたところ、体の線が確かに変わり、誇張されてはいましたが、動き自体を変えることはありませんでした。伸び縮みするストレッチ素材なので、特に問題はなかったのです。
よく、最初にこの衣装を見たときにビックリしたでしょうと聞かれますが、彼女がパリコレで発表したこれらのドレスをビデオで見ていたので、それほど驚きませんでした。でも、ダンサーの体の線から、突然思ってもみない動きが出てきたときは、大変面白いと思いました。空間に対する彼女の考え方も、話していて興味深かったです。
よく、私のダンスに難しい意味を見いだそうとする人がいますが、ストーリー性があるとか、感情に訴えるということは全くありません。とにかく動きの連続性やアクションを通して、私たちが何をやっているかを知ってもらいたいのです。ダンスの動きと衣装、舞台美術、さらには音楽という、形式の違うもの同士のコラボレーションで、今まで存在しなかった何かが偶然にあらわれるというところを見てもらいたい。
ーーーマース・カニングハム インタビュー『マース・カニングハム舞踏団日本公演プログラム』浜吉正純=取材・構成,日本文化財団,1998年,p38