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この世で1番尊いもの
あの子はわたしをおそらく愛してくれていた。一直線にわたしの心を刺して、愛で出来た絆創膏を貼って抱きしめてくれた。あなたとわたしは仲間なのよと囁かれて、わたしはすぐに突き飛ばした。あなたはわたしから全てを奪ったから、突き飛ばした。不思議そうにしたあなたはわたしに可哀想に、と言った。わたしがあなたの愛を感じ取れないくらい盲目になっているのだと、私はよりレベルの高いところにいるから待ってるわね、と言った。
死んでくれたら良いのに。
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初めて聴いた音楽はクラシックだった。音大出の母が胎教として聴かせてくれた。
初めて好きになった音楽はとある邦ロックだった。父がよく車で流してくれたアルバムを中学受験の朝、口ずさんでいた。
初めて人に貶された音楽はボーカロイドだった。クラスメイトによく分からないけどオタクっぽいね、と言われ、瞬時にそれが否定的な意味だと悟った。わたしの自意識は常に集団の中にあり、否定は死を意味した。すぐに流行りの洋楽を聴くようになった。わたしはまだ子どもだった。
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慕い続けた師匠がラスボスってよくある話なのだろうか?あいにく漫画やアニメに触れないからわからない。
大学に入り、友人に誘われたサークルで神みたいな先輩を見つけた。音楽に造詣が深く、顔も良く、ダンスが上手かった。背が低かったから恋にその気持ちを昇華することなくわたしはその先輩の後を辿った。
音の乗り方や、良いビート、良い音楽、全部その人が教えてくれた。憧れの次に出る行動が何かみんなは知っているだろうか?模倣だ。その先輩の言葉を吸い込むようにわたしも真似するようになった。あの音楽はダサい、あの音楽はかっこいい、あいつはダサい、あいつはかっこいい。そうジャッジするようになった。
だけれど、わたしは神ではなかった!
次第にその価値判断に苦しむようになった。わたしの神様が否定するもの全てダメなんだと思って、気に入っていた音楽も聞かなくなった。まだわたしの自意識は他人の中にあった。
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この世で1番尊いものは何だと思いますか?神様?両親?恋人?お金?それともこれを読んでいるhiphop好きの君たちは好きなアーティストの名前を思い浮かべるのかな。
この世には絶対なんてないけれど、でも、絶対に1番尊いものは揺るがない自我だと思う。
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大学3年生の時、友人のうちの1人が他人の容姿についてとやかく言うことが多くなった。あの子は鼻の形が変、あの子は最近太った、とか。イライラしていたわたしはつい「自分の容姿を気にしてるからそんなに人のこと言っちゃうんじゃない?」と言い放った。だって本当のことだと思ったから。その子は少し黙ってから「そうだよ。常に鏡を見て自分の顔のこと考えてる。」と答えた。そこで会話は終わった。
それからその子とは疎遠になり、今何をしているのか全く知らない。ただひとつ言えるのはその子の自意識もまた集団の中にあったのだ。
思い出したけれど、その子は彼氏のことを大学名から紹介するようなタイプだった。
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綺麗な顔だとか、良い音楽だとか、良い学歴だとか、みんな何で一喜一憂しているんだろう!わたしたちは死ぬまでの暇つぶしで日々を送っていて、それに上も下もないのにわたしの周りでは名前の知れてる会社に行った人たちが偉そうに話している!もう辞めないか、そんなものはどうでも良い、おまえが何に魂を燃やしていて、おまえが何で感情を揺さぶられたかが大事なんじゃないのか!tierなんて馬鹿らしい、お前の感情を聞いてるんだよ!!!!!!!!点数なんかじゃわからない、わたしの神様は死んだし、わたしはわたしの自意識で全てを決めているんだ!!!!なあ、わたしは今お前に向けて話してるんだよ!!!!
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他人の目を盗んで自分の目の代わりにするのはもう辞めた。人生にレベルなんてなかった。愛したいものを愛して、好きなものを好きと言いたい。そして願わくば、わたしがわたしの世界の神様になるんだ。