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演技にストーリー付けをすることの意味を考える
素晴らしいマジックの演技を見ていると、それぞれに核となるストーリーが存在していることがよくあります。例えば、「マジックの演技紹介」の第2回で紹介したPohan Huangさんの演技では、徐志摩の詩「再別康橋」をテーマに、ケンブリッジを去り中国に帰る情景がマジックを通して表現されていました。
大学のマジックサークルに入り、自分の演技を作り始めた頃、先輩たちからしきりに「演技にストーリーをつけた方が良い」とアドバイスされました。しかし、当時のぼくはその意味を正直あまり理解できませんでした。というのも、マジックそのものがすでに不思議で魅力的なのだから、わざわざストーリーまでこだわる必要はないのではないかと思っていたのです。ストーリーをつけることで、どんなプラスの影響があるのか、いまひとつピンときていませんでした。
しかし、マジックの先生の話を聞いたり、さまざまな経験を積むうちに、大学4年の終わりにさしかかった今になってようやくその重要性が実感できるようになりました。というわけで、今回は、マジックの演技にストーリーを取り入れることの大切さについて書いてみたいと思います。
ヒントは実は身近なところにあった
ストーリーがマジックの演技をより魅力的にする理由を考えるヒントは、意外と身近なところにありました。その一つが、先日訪れたディズニーシーでの体験です。
その際の様子を記した記事「ディズニーシーに行ってきた話。」でも書きましたが、ぼくはソアリンというアトラクションに乗ってひどく感動しました。記事にもある通り、このソアリンに乗るのは4回目だったのですが、実は、ソアリンの裏にあるストーリーを知った状態で乗ったのは今回が初めてだったのです。
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これまでは、「空への憧れをテーマにした博物館を巡り、最後に空を飛ぶ喜びを味わえる展示を体験できる」という認識でいましたが、実際にはこの解釈は一部しか正しくなく、肝心な部分が間違っていました。
実はなんと、あの博物館に展示されているカメリア・ファルコ(博物館2代目館長にして、このアトラクションのメインキャラクター) の肖像画や彼女が作ったとされる飛行装置・ドリームフライヤーは、彼女の生誕100周年を記念した特別展の一環としてただ飾られているだけで、博物館側がそれらが動かすような演出をしているわけではないというのです。つまり、ゲストが「空を飛んだ」と感じたり、「カメリアの肖像画が動いた」と思ったりするのは、彼女の想いが博物館の空間に息づき、それに呼応するようにゲストのイマジネーションが働いた結果だというです。
実際、キャストさんに「空を飛んだ」「カメリアの肖像画が動いた」と話しても、「何のことですか?」というような反応をされるそうです。アトラクションの体験が「現実」ではなく、「ゲストのイマジネーションが生み出した幻想」ということのようなのです。
このストーリーをわかった状態でこのソアリンに乗ると、驚くほど感動が増しました。自分がまさにカメリアとのイマジネーションの中にいるということを確かに実感できたからです。
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この部屋から進んでいくとカメリアの肖像画が展示されている部屋やドリームフライヤーが展示されている部屋にいける
それに、アトラクションが完全屋内のシアターライド形式であることにも、ストーリーを知ることで納得がいきました。以前は、「空を飛ぶ体験」も博物館の展示の一環だと思っていたため、どれほど完成度が高くても、空を飛ぶという体験が一つの建物の中で完結してしまうことについては心で割り切って考えていたと思います。(もちろん、実際に世界の上を飛ぶことはできないのですが。)
しかし、ストーリーを理解したことで、その違和感は一切なくなりました。ゲストは、展示品であるドリームフライヤーに座った瞬間、カメリアの想いとイマジネーションの力によって“幻想”を見ているに過ぎないのです。だからこそ、屋内にいながらも壮大な飛行の旅を体験できたのだと腑に落ちました。アトラクションにおける現実世界の制約を自然なものと納得できた瞬間でした。
これと同様のことがマジックについても当てはまると思います。マジックに何かストーリーがあると、観客は演技により深く没入できると思うのです。また、ストーリーがあることで、マジックの制約や不自然さをカバーすることができ、違和感なく演技を楽しんでもらえるようになる気がするのです。
演技に没入することでその人が感じる不思議さは増すと思う
ここで大事なのが、お客さんが演技に没入しているということは、お客さんが体験するマジックの不思議さをより強めることにつながるということです。
例えば、ドラマを夢中になって見ている時、その後ろ側にいるであろう大勢のスタッフの存在を意識することはないですよね。それと同じで、マジックではお客さんに演技に没入してもらうことが、お客さんにタネの存在を忘れてもらうことにつながるのです。その結果、さらに不思議なマジックができ上がります。
単に複数のマジックを並べるのではなく、一つの物語を紡ぐようにマジックを構成することで、お客さんはそのマジックの世界により強く引き込まれ、さらに、マジックにおける制約についても違和感を覚えなくなった結果、演技の不思議さが圧倒的に強く感じられるようになると思います。これこそが、ぼくが考える「マジックにおけるストーリーの意味」です。
このようにストーリーにのせたマジックを作ることはやはり難しいのですが、人間が本来持っているであろう創造欲を多いに駆り立てます。これからも創作を楽しみながら、素敵なマジックライフを送りたいです。
長文お読みくださりありがとうございました。