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氷河期世代のバツイチ女が、別の世界線の自分に想いを馳せる話
大学時代の同級生たちと数年ぶりに再会した。
47歳ともなると、皆、いい感じに年輪を重ねていた。白髪が増え、貫禄がついた。もちろん私を筆頭として。
お世話になった教授も亡くなり、もっとお会いしたかったと思い出話に花を咲かせる。時の流れは誰の上にも平等だ。
出身校は、御三家と言われる女子大のうちの一つである。今はどうかわからないが、キャリアウーマンを多く輩出する学校であった。他の女子大と同様、近年は不人気になり、偏差値もランクを落としているらしい。時代の流れであろう。
集まったメンバー6人は全て子持ちだ。そのうち、フルタイムで正社員として働いているのはたった一人だけ。あとはパートかアルバイトか専業主婦である(私は派遣社員だ。フルタイム勤務はしていない)
学生時代を思い起こせば、彼女たちはとても優秀だった。地頭がよくて、勤勉で、機転が利いて、穏やかだ。彼女たちと友人になれたことを誇らしく思っている。
そして、こう思わずにいられない。もしも彼女たちが男性であったなら、今頃は社会でどんな活躍をしていたのだろう、と。
氷河期世代の女性にとって、働きながら子育てするということは本当に大変だったのだ。企業戦士を目指すと意気込んでいた私も、今となっては半分隠居の身。派遣でパートタイムの仕事をしながら、株式投資を生業としている。
望んでそうなったわけではなく、その時々で、最も無理のない道を選んでいったらこうなった。後悔はしていない。それでも「別の世界線」に生きるキャリアウーマンの私に想いを馳せることがある。
「たぶん、私はお母さんに孫を見せられないと思う」
高校生になった娘にそう言われた。結婚に夢が持てないそうだ。
私はバツイチだ。離婚してからも養育費のほとんどを元夫が負担してくれて経済的な負担は無かったし、両親の揉めている姿も極力見せないように努力してきたが、不穏な空気はどうしても伝わるらしい。
「なんで? 結婚っていいよ。一回くらいはしてみたら? 私とYくんを見てみなよ。幸せそうでしょ」
Yくんというのは二番目の夫だ。2年前に再婚した。
「でもさ、Yくんとは『子育て』してないから仲良しなんでしょ。子育てって地獄でしかないと思うんだけど。お母さんだって本当は子育てしないほうが楽だったなぁって思ってるでしょ」
(正確にはまだ子育てしてる最中だが、娘は自分のことを既に「大人」だと思っているので該当しないのだ)
だいぶ言うようになったなぁ・・・と、娘の発言に唸りながら答えた。
「まあ、ね。別の世界線ではお母さんキャリアウーマンで、今よりスタイルもよくて、いい服着てて、東京タワーが見えるマンションを買って窓辺でワイングラス傾けていると思うよ」
「だよね。そのお母さん、想像つくし」
「でもさ、そのお母さんは、正月休みになると『ああ~、5日くらい誰とも一言も喋ってねぇな』って、声が出るか心配になってたりするんだよ。それはそれで楽しいのかもしれないけどさ。私はアナタの成績のために学校に呼び出されて先生に叱られたりするこっちの人生が、けっこう気に入ってるよ」
両方は、選べないからね。そう心の中で付け加えた。
娘は
「へんなの」
と言ったけど、嬉しそうだった。
「でもさ、子育てする自信がないんだよね」
「ああ、それね。大丈夫だよ。アナタが子供産むころは、国もさすがに焦ってるよ。今だって『高校の授業料無償化』とかやってるでしょ。あれがもっと進んで保育園も何もかも無料になって『子供産んでくださるんなら、どうぞご安心ください。あとは国がぜんぶ面倒見ますんで!』って時代がくるよ」
「はぁ・・・そんなわけないじゃん、とは思うけど、未来に期待するか~」
「そうだよ。お母さんたち『置いて行かれた世代』だけど、一生懸命応援するからさ」
本当に、どんな時代が来るのだろう。
一つ言えるのは、自分の娘に限らず、これから結婚する人、子育てする人を社会全体で応援しなければ、この国の未来は無いということ。
電車でベビーカーに悪態つく輩とか、言語道断だ。信じられないけどマジでいるもんね、そういうの。次にそういうヤツを見つけたら後ろから蹴り飛ばしてやる。
・・・ついつい言葉が乱暴になるのは虐げられた世代の性かもしれない。反省いたします。