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アンデスの尾根を、バスは行く①

1998年、当時南米のある国でサラリーマン生活をしていた僕は、数週間の休暇を利用して、ペルー、チリ、ボリビアを巡る旅をしていた。
地図を眺めながらざっとルートだけ決め、その日の体調と天気と勘だけを頼りに、バスに乗り、列車を降り、宿を探し…という無謀なバックパック旅行だ。

その日は、ペルーのアンデス山中にある小さな町で、小さな遺跡を午前中いっぱい歩き倒して堪能した。アンデス文明に興味のある人ならうっすら聞き覚えがあるかもというマニアックな遺跡で、観光客は2~3人すれ違う程度。

町なかの小さな資料館や教会を見終わると、やるべきことはもう何もない。昼食を、エンパナーダ(ペルー版の肉詰めパイ)とミネラルウォーターで済ませると、やることもない町で今から宿を探し、無駄に一日を過ごすことがとてもいけないことのように思えてきた。
標高は結構高い町だが、高山病の症状もなく、体調はすこぶる元気だ。
「よっしゃ、前倒しで、今から夜行バスで次の町に行こう。宿代も一泊節約できるし!」。エンパナーダ屋のおっちゃんにバスターミナルの場所を聞くと、さっそく足取りも軽く向かった。

夕方のバスターミナルは大荷物を抱えた現地の人々で大混雑している。人ごみをかき分けながら、何とかお目当てのバス停を探し出し、いくつかあるクラスの中で最安値のくたびれたバスを選ぶ。旅の先は長い、節約は善だ。
ゴージャスな夕焼けの中、我らがおんぼろバスは快調に出発した。
この夜、このバスが、僕に一生忘れられない景色を見せてくれた。

続く…



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