数万年の時間が崩壊するペリト・モレノ氷河②
地球の縮図、南米大陸を地図で見ると、南に行くにつれて幅が狭まり、意外なほど南極大陸との距離は近iい。まるで、南極という人を寄せ付けないホワイトホールに、大陸ごと吸い込まれていくようにも見える。
「幅が狭まり」と書いたが、そこには関東平野の30倍以上の面積をもつ大草原パンパ(学生のころ地理の授業で習ったことを覚えている方もいるのでは)が広がっている。世界有数の牧畜地帯なのだが、行けども行けども、地平線しか見えない。のどかな牧場感はゼロで、広大すぎて茶色の景色に全く変化がない。
さらに、バスの外は、南極から吹きつける凍えるような南風。そう南半球なので、冷たい風=南風なのだ。生命を受け入れてくれる安心感が乏しい。
ちなみに浦沢直樹先生の名作『MONSTER』の「終わりの景色」「名前のない世界」のコマを見たとき、真っ先にパンパの景色が脳裏に浮かんだ。
また、『手紙の行方 ーチリー』(山口智子、ロッキング・オン)
を読むと、パンパの空気感が蘇ってくる。俳優としての山口智子さんも素敵だが、この方の感性と文章も、とても美しい。
1997年、僕はパンパを突っ切って南下するバスに乗っていた。目指すは
「パタゴニア」。世界的企業の社名にもなったそのエリアは、アルゼンチンとチリにまたがる。アンデス山脈が南極ホワイトホールに吸い込まれていく、世界的にも希少な手つかずの自然が残る、フィン・デル・ムンド(スペイン語で「この世の果て」)。
そのパタゴニアの最奥部に鎮座するのが、ペリト・モレノ氷河だ。
あらためて「氷河」とは何か? 雪が自重で圧縮され氷になり、ゆっくりと大地を削りながら移動するというとてつもない物体で、地球上の限られた場所にしか存在しない。
しかし、このペリト・モレノ氷河は、観光バスやボートで行ける上に、その氷河の上をトレッキングすることも可能。前回①と今回②のページ上部の写真は、一見するとただの雪山だが、岩石の山に雪が張り付いているのではなく、山そのものが化け物のような氷の塊なのだ。
実際僕も数時間のトレッキングツアーに参加したが、文字表現が追い付かない。もう、検索してもらえれば膨大な画像や動画が出てくるので、そちらを見ていただきたい。
さらに、氷河が流れ落ちる移動スピードは世界最速レベルで、とんでもないスペクタクルを見ることができる。
トレッキングよりも、僕はその景色が脳裏に焼きついて、30年たっても色あせないのだ。