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傲慢なキャンディー チチカカ湖の浮島にて ②

ウロス島のおばあちゃんは、笑顔で話しかける僕の方を振り向き、憎々しげな目線でにらみつけこう言った。

「日本がどこにあるのか知らないが、わざわざこんなとこまで来られるんだから、よっぽど金持ちなんだねえ。」

「あんたら外国人は、すぐに島の子どもたちにお菓子を配るが、絶対にやめておくれ。」

「そのせいで子どもたちは虫歯だらけになって、痛がって毎日泣いてるんだ。島に病院はないし、町の病院に連れていくような余裕はないんだよ。本当にかわいそうでしょうがない…。」

言葉がない。黙り込むしかない。「安上がりに、途上国の子どもたちの笑顔が見たい」などという、薄っぺらい僕の魂胆が見透かされている。

そうだ。歯を磨く習慣も、歯ブラシを買う余計なお金も持たないインディヘナの暮らしの中に、キャンディーを持ち込んだのは、僕たちだ。

何百年、何千年と続いていたインディヘナの暮らしの中に、「観光客がおとす金」というキャンディーを持ち込んだのは、僕たちだ。

大航海時代に、アンデス文明を破壊しつくしたヨーロッパの侵略者の鉄砲から放たれた弾丸と、僕のバックパックの中のキャンディーは同じだ。

悪意ゼロで、無自覚に、傲慢に、現地の人の生活をかき乱し、たち去る。



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