探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⑨
⑨あいつは明日の朝には戻ってくるだろうよ
アマゾンのジャングルのど真ん中で道を見失い、図らずも2日目のキャンプに突入した僕たちは、焚火を囲みながら酒を飲んで、とりとめのない話を何時間も話し続けた。
ふと気がつくと、その輪の中に、サブリーダーのナンドがいない。
「いつの間にか一人増えてました!」は相当怖いが、ジャングルで一人いないこともリアルに怖い。
夕方のまだ明るいうちからみんなでバーベキューの準備を始めたが、その時間帯にはもうナンドの姿はなかった気がする。
隣のおっさんAに、「ねえ、ナンドがいないんだけど、どこ?」と尋ねると、「夕方、一人でまた狩りに行ったぜ。あいつは腕も確かだが、根っから狩りが好きだからなあ。去年はよ、こんなでっかい…」
いやいや、そうじゃなくて。反対側のおっさんBに
「一人でプマに襲われたらどうするんだよ。探しに行かなくていいの?」
と聞くが、
「ノ・プロブレマ(問題ない)。あいつは大丈夫だよ。それにどうやって探すんだよ、夜のジャングルで。」
焚火の周りの闇からは、ひっきりなしに何ものかの鳴き声が聞こえてくる。雨が降る気配はないが、風で枝葉がこすれあう音が不安を増幅させる。
人間は。少なくとも僕は、周りに人間がいてくれることで、なんとかこの大自然の、のしかかるような圧力に耐えて座っていられる。同じ姿態の生物が横に座って、理解できる言語を話しかけてくれて、自分の手にアルミのビール缶を握っていることで、自分が人間社会の一員であることを確認し、人間社会とつながる糸をたぐり寄せ、かろうじて恐怖で叫ばずにいられる。
もし一人なら。
無理だ、僕にはたった一晩でさえここで生き延びる自信がない。
数万年前、アフリカ大陸に始まったグレートジャーニーの末、アマゾンにたどり着いたインディヘナ(先住民)たち。
大航海時代に、南米大陸を「発見」し、金銀財宝を求めてアマゾンをさまよったヨーロッパ人のコンキスタドール(征服者)たち。
これまで、その双方に所属する無数の人間が、ジャングルに飲み込まれ、他の生き物の食料になり、アマゾン川に沈み、土に還っていっただろう。
ナンドやホルヘの体には、そのふるいを生き抜いた、双方の民族の血が流れている。だから、きっと、大丈夫なのだろう。
泥酔したホルヘが言った。
「さあ、もう寝るぜ。明日起きたら、ナンドは戻ってるだろうよ。」
⑩完結編 パナソニックとコカ・コーラ~再び文明世界へ…に続く
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