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神のお宝を盗め!~ポトシ銀山①

Tio(ティオ)は、アンデス山脈の地底奥深くで、一人ほくそえんでいた。
「さあ、人間どもは、いつおれのこの財宝を見つけられるかな。
その時の、人間どもの狂乱を想像するとゾクゾクがとまらねえぜ。」


歴史の教科書で、ポトシ銀山という名前に聞き覚えがいる人もいるかもしれない。世界有数の銀の産出量を誇り、南米のみならず世界史をも大きく変えた、いわくつきの場所である。

1999年の1月、僕は南米大陸のボリビア、標高4000メートルを超えるアンデス山中のさびれた都市、ポトシの安宿で、軽い高山病にかかり寝込んでいた。
がんがんとうずく頭痛と、全身の倦怠感。なんとか起き上がって食事ができる程度のきつさだが、町を歩くほどの元気はない。
南米でのサラリーマン生活の合い間に、少し長めの休暇を取って、無計画にアンデス山脈周辺の遺跡などをまわるという気ままな旅だ。今日明日に慌ててどうこうする予定もない。まあ、体が高地順応するまでベッドで寝てればいいさと開き直って、テレビも何もない寒々しい部屋で数日過ごした。

見かねた宿の主人が、親切にもコカ茶とコカの葉を数枚持ってきてくれた。
ボリビアでは、コカの葉は町のいたるところで普通に売られている。
「麻薬コカインの原料」、「ハッパ」という響きから相当ヤバイものを想像するが、緑の葉に熱湯をかけただけのコカ茶は、日本のウーロン茶くらいの感覚で飲まれているし、葉そのものをガムのようにクチャクチャ噛む行為も違法でも何でもない。

僕は、主人が注いでくれた、新品の畳を煮詰めたような風味のコカ茶をゆっくり飲み干し、500円玉くらいのサイズの緑の葉っぱを、何度も奥歯でかみしめる。
しばらくすると、薄っすら唇と舌がしびれてくる。歯医者の麻酔が切れかかったような感じだ。頭痛も少し和らいだ気がする。
もちろん、何か幻覚が見えるとか、依存性で苦しむとかは一切ない。

そもそもコカという植物は、数千年前からアンデス一帯で栽培されており、「半分が優しさでできている日本の頭痛薬」と同じように鎮痛剤として使われていた。さらに、宗教儀式に欠かせない供物として、日常生活に完全に溶け込んだ植物なのだ。

その成分を欧米の科学で精製した医薬品が発明され、現在の麻薬コカインにもつながる。そんなヤバイものは、いくら南米でも、まっとうな一般市民やバックパッカーが目にすることは絶対にない。(もちろん、葉っぱの段階でも日本に持ち込むことはできない。)

19世紀に販売がスタートしたコカ・コーラもその名の通り、もともとは医薬品を飲みやすくアレンジした健康飲料だった。(もちろん現在は、コカ成分は含まれていない。)

翌朝目が覚めると、コカ茶の効き目か、ただのプラシーボ効果か、体が4000メートルの環境に適応し始めたのかわからないが、外出できる程度に体調は回復していた。
宿の主人に丁寧に礼を言い、少しだけ多めに数日分の宿代を払った。その足で宿のすぐ隣の小さな旅行社を訪ねる。
もちろんここまで来たのだから、ポトシ銀山 地底探検ツアーに参加だ!

神のお宝を盗め!~ポトシ銀山②…に続く


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