たくさんの大根の中にわずかな二十日大根を売る
秋も深まり、冬の足音が近づくこの時期、産直市場にはさまざまな地元野菜が並びます。しかし、収穫できる野菜の種類はぐっと限られてくるため、どうしても大根やカブのような根菜類が棚を占める光景が広がります。
地元の産直市場を訪れると、立派な大根やカブが所狭しと並び、どれもきれいで艶やかです。これらは、地域のプロ農家さんが手塩にかけて育てたものばかり。太くて長い大根が一本100円から200円。正直、兼業農家の自分が太刀打ちするにはハードルが高いと感じます。収穫、洗浄、出荷準備にかかる手間を考えると、「これでどうやって元が取れるのだろう?」と頭を抱えたくなるほどの安さです。
それでも「何か出荷してみたい」という気持ちが湧きました。ただし、他の人と同じことをしていては埋もれてしまうのは明らか。ここで目をつけたのが 二十日大根 でした。
二十日大根の魅力
二十日大根は成長が早く、種をまいてから約20日で収穫できるため「二十日大根」と呼ばれています。育てるのも比較的簡単で、家庭菜園でも人気の野菜です。赤くて丸い可愛らしい見た目は、他の根菜にはない大きな特徴です。
産直市場に並べる際も、この赤い見た目がポイントになりました。並ぶのは白い大根やカブばかりなので、赤い二十日大根はひときわ目立ちます。赤い丸い根っこが愛らしく、手に取るだけで「買ってみようかな?」という気にさせます。「珍しいし、試しに買ってみよう」という気持ちを引き出せれば成功です。
出荷の工夫
出荷する際は、サイズをそろえすぎないよう意識しました。小さいのから大きいのまでいろいろなサイズを混ぜて、束にして100円。どの束も同じように見えると面白みがないので、少しばらつきがあるほうが「選ぶ楽しさ」が生まれると考えたのです。
また、葉っぱもあえてつけたまま出荷するようにしました。二十日大根の葉っぱは食べられるため、料理好きの方にとっては嬉しいポイントになります。「葉っぱをきれいにしてくれている」と思われれば、リピーターも期待できます。(大根の葉はあると大根がしおれやすいのでこの辺の農家さんは出荷時に取ってしまいます。)
準備の大変さ
ただ、二十日大根の出荷には手間がかかります。収穫後の洗浄、葉っぱの泥落とし、見た目の整理…。立派な大根と違って細かい分、時間がかかることが難点です。しかし、そのひと手間を惜しまないことで、売り場では他にライバルのいない「唯一の二十日大根売り場」が完成しました。
挑戦して得たもの
結果的に、二十日大根は予想以上に売れました。手に取りやすい価格、目立つ見た目、そして他に出荷している人がいないという「競争のなさ」が奏功しました。
自分の育てた野菜が誰かの食卓にのる喜び。収穫の手間も洗浄の労力も、その瞬間にはすっかり報われた気がします。次は何を育てようか――農業の楽しさは、いつも新しい発見と工夫が生まれるところにあるのかもしれません。