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「着てみる」前に知りたいことがある

作品で語る。見てもらえればわかる。
あえて言葉が添えられない作品もある。

服もそういうところがあって「着てもらえればわかる」場合が多いです。
何がわかるかというと
「似合うのか似合わないのか」
「着心地がいいのかどうか」のような、その服をこれからも着たいかどうかということ。

確かにそれは「着てみないと」わかりません。でも、実際はその前後に知りたいことがたくさんあるはずです。

価格はもちろん、素材、機能、どんなブランド(人)なのか。まずは情報があって「それなら試してみようかな」となる場合は多いはず。
そして、試着して「似合う」とわかったら、じゃあそれが「なぜ」似合うのかを知りたい人だっています。

それであれば、売る側はまっすぐ、わかりやすく自分たちの事を伝える努力を怠ってはいけません。

そんな事を原田マハさんの『本日は、お日柄もよく』を読んで思ったのでした。

「スピーチライター」という仕事を題材にした小説なのですが、言葉でどう伝えるかということの大切さを再確認させてくれる作品でした。

もっとも印象に残ったのが、施設に入っているお年寄りの方のお話をただただ聴き続ける「リスニングボランティア」のエピソード。
「話すにはまず聞くところから」と言いますが、その方はとにかく聞く。同じような内容のループでもとにかく聞くんです。
自分の意見を言ったり、必要以上に応答しない。微笑んで聞く。
そして、明るい内容のお話だったら「すてきですね」悲しい内容なら「大変でしたね」それだけ言って終わるんです。

「黙って聞く、という行為は、その人のことを決して否定せずに受け止める、ということなの。」(原文引用)

普段、そんなに一方的に喋りかけられることはないし、黙って聞くというよりもこちらの意見を交えながら聞くことが多いです。でも、気持ちよく喋ってもらうにはどうしたらいいかなということはよく考えます。

楽しく喋ってもらって、その内容が良いシャツの提案につながる。
そんな良いことはないです。

僕にも「好きなテイストのシャツ」とそうでないデザインはあります。また、理論的に考えてバランスが悪いと思うものもあるので、それは積極的に伝えるようにしています。
でも、このシャツは僕が作るものであっても、お客様と一緒になって考えるシャツです。
その方を少しでも否定していては良いものは生まれないと思います。

ずっと黙って聞くことはできませんが、まず受け入れて、優しくまっすぐ投げ返す。これはこれからもずっと大事にしたいと思いました。



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窪田健吾 / holo shirts.
オーダーという業態を選んだ時点で「無駄なものを作らない」が頭にありました。これまでもこれからも、ちゃんと袖を通して着倒してもらえるシャツ作りを続けていきたいと思います。

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