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【ホップする球】速いだけじゃ打ち取れない!打者を驚かせる球威の出し方



石橋秀幸
元広島東洋カープ一軍トレーニングコーチ
元ボストンレッドソックストレーニングコーチ

こんにちは。
ホロス・ベースボールクリニックの石橋秀幸です。

今回のテーマは「球威」です。

ピッチャーであれば、誰もが一度は「打者を驚かせるほどの球威のあるボールを投げたい」と思ったことがあるはずです。

しかし、球威とは一体どういうもので、どうすればそれを身につけられるのでしょうか?

プロ野球の試合を見ていても、150キロを超える速球を投げている投手に対して、解説者が「今日は球威が足りないですね」と言う場面を目にします。

なぜ、球速が速いだけでは十分ではないのでしょうか?

一方で、スピードがさほど速くなくても「キレのあるボール」と評価されることもあります。

この違い、気になりませんか?

ということで、今回はただ速いだけではない、打者が本当に驚く「球威」の秘密について深掘りします。

今回の内容を知ることで、お子さまはバッターを驚かせる、球威のあるボールが投げられるようになります。それが、自信を持って試合に臨むことにつながるはずです。

そして、球威のあるボールを投げるために、今すぐできる体の使い方やトレーニング方法もご紹介します。

ですから、お子様のために、球威のある球を投げる方法を知りたいとお考えの方には、とてもためになる内容です。

そして、今回の内容を知ることで、お子様に球威とは何かを、自信をもって説明できるようになれます。

それでは、球威のあるボールを投げるための秘密を早速見ていきましょう。

ぜひ、最後までお楽しみください!


球威がある球を投げる

球威のあるボールを投げるには、リリースしたボールに力がしっかり伝わる、理想的な投球フォームの習得が必要です。

少年野球の投手や中学生の投手の場合、体が成長段階ですから、大人と同じように投げるのは、まだ難しいです。

ですから、筋力やバランスといった基礎体力を高めながら、理想的なフォームの習得を目指してください。

なお、理想的な投球動作の習得については、「多くのプロを指導した動作分析の専門家による投球改善メソッド」も参考にしてください。

では、球威とは何か、解説していきます。


球威に対する誤解

球威というと、「速いボール」と言うイメージが強いと思います。

ですから、速い球を投げる投手は「球威がある」と自動的に考えてしまうのではないでしょうか?

しかし、球威は球速だけで決まるわけではありません

また、球威と変化球は、関係ないと思っている人も多いように思います。ですが、そう思っているとしたら、それも誤解です。

では、球威があるとは、どのような球のことを言うのかについて、次で解説します。


球威のある球とは

球威とは、球の威力のことです。

説明したように、球威とは、単にボールの速度が速いということではありません。 

バッターが感じる球威とは、球速をはじめ、球の回転や軌道、そして、バッターの心理的影響など、複数の要素が複雑に絡み合って「球威」を感じます。

一般的に、球威のあるボールのことを、「ホップするような」と表現しますね。

実際のボールは、重力の影響を受けて、少しずつ落ちていきます。しかし、球威のあるボールは、その落差が少ないので、打者に浮き上がっているように錯覚を起こさせます。

そのため、ボールの軌道を見極められないバッターは、空振りをしてしまいます。


球威アップの秘密

球威のあるボールを投げる秘訣は、ボールの回転で揚力を発生させることです。

これを、マグヌス効果と言います。

フォーシームのストレートの場合、ボールにかけるバックスピンが、上向きの揚力を発生させます。

その揚力が高ければ、ボールは重力の影響に逆らって、落ちずに進みます。ですから、ボールはバッターの見極めた軌道より「上を通過」するので、空振りになってしまいます。

マグヌス効果により、揚力を大きくするほど、球威のあるボールになります。そのためのカギになるのは、ボールに回転数を多くかける投球です。

ちなみに、マグヌス効果は、変化球が曲がる原理でもあります。

ご覧いただいている図を、横からの軌道を見ている図だとすると、ストレートに対する軌道になります。これを、高いところから見下ろしていると考えると、右投手のシュート回転しているボールになりますね。

すると、右に曲がるマグヌス効果になりますから、シュートが曲がっていくメカニズムが理解できるのではないでしょうか。

変化球もまた、回転数を多くするとキレが生まれ、球威のあるボールになるわけです。

なお、マグヌス効果の詳しい解説は、「打者が恐れる「火の玉ストレート」5つの秘密を徹底解説」でしていますので、こちらも確認してみてください。


球威を高める工夫

ここまでの説明で、球威についての理解が深まったと思います。

球威を高めるには、ボールの回転数を多くする工夫が必要です。

以前ご紹介したように、今永投手がメジャーで大活躍しているのも、球威のあるボールを投げているからです。

その解説は、「今永昇太投手のストレートがメジャーリーガーに通用する本当の理由」で詳しくしています。

平均球速が148キロの今永投手が、メジャーの強打者を抑えている秘密がわかる内容です。

ぜひ、併せて確認してみてください。


リリースの工夫

ボールの回転数を上げるために、リリースを工夫してみましょう。

マグヌス効果を高め、ボールの上への揚力を大きくするに、必要なことは何だと思いますか?

それは、リリースの瞬間に、指先で強いバックスピンをかけることです。

縫い目にかかった指先を、上から叩きつけるようなイメージで投げることで、バックスピンがかかり、回転数を上げることができます。

ただ、経験値の低い小中学生が、強いバックスピンをかけようとすると、ヒジを振るような投げ方になってしまうかもしれません。

ですから、投球の6つのフェイズのポイントを「速い球が投げられる!下半身から伝わる力を最大限に活かす投球フォームのつくり方」で確認しつつ、上から叩きつけるイメージで投げられるように練習をしてください。

また、上から叩きつける感覚を身につけるトレーニングについては、最後にお伝えします。


握り方の工夫

握り方を工夫することでも、ボールに強いバックスピンをかけることができます。

ボールにバックスピンをかけるのは、縫い目にかかった人差し指と中指です。

一般的には、人差し指と中指の間は、指が1本入るくらいあけるように指導されると思います。

この指の間隔を狭くすると、ボールを握る不安定感が増しますが、強いスピンをかけることができます。

逆に、指の間隔を広くすると、ボールを握る安定感は増しますが、スピンをかけにくくなります。

その安定感は、コントロールに影響を与えますので、指の間隔をいろいろと試して、実際に投げてみて、感覚をつかんでください。

ただ、特に小学生は、手が小さくてうまく握れないことがあります。

そのような場合は、「コントロールを安定させたい投手へ!下半身の使い方と効果的3つのトレーニングを解説」を参考に、握り方を調整してみてください。

ちなみに、ボールに強いバックスピンをかけるためには、握力が必要になります。

その点について、10歳から22歳までの野球選手を対象に調べた、アメリカの研究結果があります。

年齢により、身長や体重、腕の太さや握力など、体のいろいろな部分に違いがあります。そして、運動能力も違いますが、それぞれの年代で投球速度との関係を調べたものです。

結果的に、握力やジャンプ力、短距離走の速さや方向転換の速さなどが、ボールを投げる速度と関係が深いことが分かりました。

ただ、体幹や下半身の筋力が発達段階にある小中学生は、握力が強い選手ほど、より速いボールを投げられる傾向がありました

ですので、握力を高めるトレーニングについても、最後にお伝えします。


体の使い方のポイント

球威のあるボールを投げる体の使い方とは、理想的な投球動作で投げることを意味します。

それには、投球動作の6つのフェイズごとのポイントを理解して、運動連鎖によって強いボールが投げられるように、練習を重ねることが求められます。

なお、投球フェイズのポイントについては、「速い球が投げられる!下半身から伝わる力を最大限に活かす投球フォームのつくり方」の解説を確認してみてください。

球威を高めるためには、リリースで強いバックスピンをかける必要があります。そのためのポイントをおさらいしましょう。

アーリーコッキングフェイズでの踏み出し足の着地で、しっかりブレーキをかけることが必要です。

小中学生の投手は、ここで踏ん張りきれず、ヒザの角度が深くなってしまうことがあります。

ヒザの角度が、60度になる意識をしましょう

この意識が、レイトコッキングフェイズでの強い体幹の回転につながります。

体幹の鋭い回転によって、腕が振られることで、アクセレーションフェイズでの強いリリースになります。

なお、レイトコッキングフェイズからアクセレーションフェイズで、肩が大きく回ると、強い投球につながることが、アメリカの研究でわかっています。

専門的には、外旋と言いますが、ヒジと手首を結ぶ前腕が、地面と平行になるくらい肩が回ると、球威のあるボールが投げられるようになります。

出所:「平成の怪物」松坂大輔 再生なるか、Wedge ONLINE、2018

また、投げる腕と反対側の肩は、できるだけ動かさない意識も必要です。

小中学生の基礎体力では、少し難しい部分ですが、キャッチャー側の肩、右投げなら左肩、左投げなら右肩が早く動くと、体が左右にブレてしまいます。すると、力がうまく伝わらなくなります。

以上の点をキャッチボールの時から意識してください。


バックスピンをかけるトレーニング

お伝えしてきたように、球威のあるボールを投げるためには、ボールに強いバックスピンをかけることが求められます。

そのためには、縫い目にかかった指先を、上から叩きつけるような感覚を身につけることが効果的です。

そこで今回は、上からボールをたたく感覚をつかみ、指先の力を向上させるトレーニングについて紹介します。

ぜひ、日々の練習に取り入れてください。


強いリリースを生み出すトレーニング

すでにお伝えしたように、マグヌス効果を高めて、ボールに揚力を与えるためには、ボールの回転数を高める必要があります。

そのためのトレーニングが、真下にボールを叩きつけるトレーニングです。

  1. 地面に丸印を描く

  2. その丸印に向い、軟式球を上からたたきつける感覚で投げる

ボールが真上に高く跳ね返れば、指先で強いバックスピンがかけられたことになります。

逆に、ボールが高く跳ね返らなかったり、左右に跳ね返ってしまうかもしれません。その場合は、指先にボールの縫い目がかかっていない、抜けたボールになっている証拠です。

少しずつでいいので、強く真上に跳ね返るように練習を繰り返しましょう。

一度に行う回数は、年齢や体力状況に合わせてください。

5球を1セットとして、2から5セット行ってみましょう


指先の力を強化するトレーニング

先ほどお伝えしたように、小中学生の投手は、握力が強い選手ほど速いボールを投げられる傾向があります。

そこで、ゴムチューブを利用したトレーニングを3種類紹介します。

「指先でチューブを引っ張る」

  1. パートナーにチューブを持ってもらうか、ドアノブなど固定できるところを利用する

  2. チューブを画像のように指先にかける

  3. 第2関節(PIP関節)から曲げてチューブを引っ張る

「5本の指でチューブを広げる」

  1. 画像のようにチューブを輪っか状にする

  2. チューブの中に5本の指を入れる

  3. できるだけ大きく開く

「2本の指でチューブを広げる」

  1. 画像のようにチューブを輪っか状にする

  2. チューブに人差し指と中指を入れる

  3. 左右にできるだけ大きく開く

それぞれ、10回ずつ、2から3セット行いましょう

利き腕だけでなく、左右両方行ってください。


今回のまとめ

いかがでしたか?

今回は、球威のあるボールを投げる方法についてお話ししました。

球威とは、単にボールの速さだけでなく、ボールの回転や軌道、バッターの感じ方に影響される、力強いボールのことでしたね。

また、マグヌス効果により、「ホップするように感じるボール」が球威のあるボールの特徴でした。

そのためには、強いバックスピンをかけることがポイントだと理解できたと思います。

これらのポイントを意識した練習を継続することで、球威のあるボールを投げることができるようになります。

球威向上は、一朝一夕にできるものではありません。焦らず、段階的に練習に取り組んでいきましょう。

それでは、引き続き野球の上達のために頑張っていきましょう。

次回も、さらなる野球の上達につながるアイデアをお伝えしますので、お楽しみにお待ちください。

野球上達に関するお悩みや疑問点がありましたら、いつでもご連絡ください。

あなたからのご連絡をお待ちしています。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


参考文献:

石橋秀幸著、レベルアップする!野球 科学・技術・練習、西東社 

石橋秀幸著、マー君をめざす最新トレーニング、廣済堂出版

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【石橋秀幸プロフィール】

広島県出身 日本体育大学卒。
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修卒。 1987年から2002年まで15年間、広島東洋カープの一軍トレーニングコーチ。
1997年ボストンレッドソックスへコーチ留学。
現在は、神奈川大学人間科学部非常勤講師、慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員。
また、2022年11月からホロス・ベースボールクリニック代表として、球児の成長のサポート事業をスタート。
これまでも、プライベートコーチとして、小学生から大人まで、アスリートはもちろん、プロの演奏家へもトレーニングとコンディショニング指導を行う。
講演実績多数。
著書多数。
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■石橋秀幸これまでの業績:
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