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【ただ速いだけではダメ】今永昇太投手のストレートがメジャーリーガーに通用する本当の理由



石橋秀幸
元広島東洋カープ一軍トレーニングコーチ
元ボストンレッドソックストレーニングコーチ

こんにちは。
ホロス・ベースボールクリニックの石橋秀幸です。

今回は、今永昇太投手が投げる魔球「ホップするフォーシーム」のメカニズムについて解説していきます。

あなたもご存知のとおり、今永昇太投手がメジャーリーグで大活躍を続けています。

2024年5月25日現在の成績は、5勝0敗で、防御率は両リーグトップの0.84です

今永投手のストレート、フォーシームの平均速度は、92マイルで約148キロです。150キロに近いので、とても速いストレートですね。

ただし、メジャーリーグには160キロを投げる投手もいるわけですから、飛び抜けて速いというわけではありません。

つまり、今永投手が、メジャーの強打者を封じ込めている秘密は、球速だけが理由ではないのです。そこには、今永投手独特の特徴があります。

ということで、今回は、メジャーリーグでも空振りを奪える今永投手の球種と配球について、その秘密を徹底解説します。

今回の内容を知れば、148キロの平均球速でありながら、メジャーのバッターを翻弄する今永投手の魔球の秘密がわかります。

そして、その秘密を知ることで、あなたのお子様の投球力アップにつながるヒントが得られるはずです。

もちろん、少年野球や中学生の投手の場合、速いストレートを投げること自体が、これからの課題という投手が多いと思います。

でも、今回の内容は、将来に向けて打者を翻弄するピッチャーになるための大切な内容になっています。

ですから、ぜひ最後までご覧ください。


メジャーリーガーを幻惑する魔球の正体

まず大事なことは、今永投手の魔球の秘密は、ただ速いだけのストレートではないということです。

なぜ、今永投手のフォーシームは打者を翻弄することができるのでしょうか?その秘密は、今永投手のフォーシームの質、つまり「球質」にあったのです。

では、そのフォーシームの球質とは一体どのようなものなのでしょうか?そして、どのようにすれば今永投手のようなフォーシームが投げられるのでしょうか?

ただ、球質だけでメジャーの打者を抑えているわけではありません。

それは、近年のメジャーリーグでは、「フライボール革命」が浸透していることが関係しています。

メジャーリーグの各打者は、打球を遠くに飛ばすために、鋭いスイングでフライを打とうとしています。

そのスイングに対する今永投手の秘密を、これからしっかりと解説していきたいと思います。

ただその前に、フライボール革命について少しだけ説明しておきますね。


メジャーリーグのフライボール革命とは?

近年メジャーリーグでは、「フライボール革命」が浸透しています。

フライボール革命とは、打球の飛距離を伸ばして長打を打つこと。それが、得点につながるという考えです。

メジャーリーガーの多くは、そのような考えで力強いスイングをしてきます。

今永投手は、それらのバッターを逆手にとって抑えているのです。

その秘密を知るためには、メジャーリーガーのバットスイングについて理解する必要があります。

強い打球を打つためには、重いバットと速いスイングスピードが必要です。

そして、ホームランや外野手の頭を越えるような飛距離のある打球を打つためには、ボールに角度をつける必要があります。

つまり、ボールを上向きの角度で飛ばすことがポイントになります。

この上向きの角度を出すためには、ボールの中心より少し下をミートすることが理想だと言われています。

その理想的な角度は、バットが45度〜55度くらいで入るスイングです。すると打球は、35〜45度というもっとも飛距離が伸びる角度で飛んでいくことが分かっています。

メジャーのバッターの多くは、このポイントにバットを入れようとしながら、強いスイングをしてきます。

ではここで、メジャーリーガーに多く見られる、強い打球を打つバットスイングの仕組みについて、もう少しだけ解説します。

それが、後ほど説明する今永投手の投球スタイルとつながっていきますが、それについては後ほど説明します。


強打を生むバットスイングのメカニズム

バットスイングは、インサイドアウトが理想的だと言われていますね。

トップの位置からグリップが出てくる時、身体の軸に対して45度くらいの角度で出るように意識します。すると、バットのヘッドが身体の内側から外側に向かって、スムーズに出て行きます。

このようにバットが内側から外側に向かって描く軌道を、インサイドアウトといいます。

そして、多くのメジャーリーガーのスイング軌道は、真横に円を描くような軌道ではありません。インサイドアウトで斜めにUの字を描くような軌道になっています。 

バットのヘッドが上から下がって、また上へ上がっていくという軌道です。このUの字の軌道の折り返し地点がインパクトになります。

強い打球、飛距離が伸びる打球は、強いインパクトから生まれます。インパクトでバットのヘッドが強く走ることが重要なのです。

その強いインパクトを生み出すには、前腕の筋力が重要です。

最大筋力は、筋肉の断面積に比例して大きくなります。そのため、強い打球を打つためには、前腕の太さもバッターに必要な要素の一つとなります。

ちなみに、日本のプロ野球選手の場合、前腕の太さが30cmを超えている選手がほとんどです。中には35cmを超えている選手もいます。

ただ、強いインパクトを発生させるUの字を描く軌道のスイングは、前腕の力だけではできません。前腕の筋力に加え体幹の筋力が打球に大きく影響します。

メジャーリーグの選手は、身体が大きくて筋肉がしっかりついた体格をしていますね。そのような選手は、体幹の筋力もとても強いのです。

今永選手は、そのような強力なスイングで向かってくる打者から、多くの空振りを奪って抑えているのです。

では、今永投手はどのようにしてメジャーの選手たちを封じ込めているのでしょうか?

次に、その秘密について解説していきます。


今永投手のフォーシームの特別な「球質」

メジャーリーグが公表しているデータによると、今永投手が投げている球種は、フォーシーム(ストレート)が約58%を占めています。

これは、全投球の中での割合ですが、2球に1球以上のフォーシームを投げています。

もちろんバッターは、今永投手の投球データがわかっています。ですから、高い確率でフォーシームが来るとわかっているわけです。

つまり、バッターからすると、ストレートを狙いやすいと思いますよね。

ところが、今永投手は、23%という高い確率で、フォーシームで空振りをとっています。高い確率でフォーシームを投げて、メジャーリーガー達を封じ込めているのです。

先ほども言いましたが、今永投手のフォーシームの平均速度は92マイルです。92マイルというと約148キロです。

ずば抜けて速いとは言えない球速ですが、なぜ、フォーシーム中心の投球で、メジャーの打者を抑えられているのでしょうか?

次に、その秘密について解説します。


球速以上の威力を持つ角度と回転数

投手が、速いストレートを投げるためには、球の回転数とボールの角度が重要です。これらは、以前に「藤川球児投手の火の玉ストレート」で紹介しました。

ボールの角度というのは、わかりやすいと思います。

例えば、身長が高い190cmの投手が投げると、高低の角度が大きいので打ちにくくなりますね。

今永投手のプロフィールを見ると身長が178cmです。メジャーリーガーの中に入ると、決して大きい方ではないです。

しかも今永投手は、スリークオーター気味で投げますから、投球フォームも相まって、角度があるとは言えません。

謎は深まりますね。

では、速いストレートのもう一つの要素、回転数をみてみましょう。

今永投手の回転数は、平均で2439回/分(2024/5/25現在)です。

平均なので、フォーシームだけの回転数ではないのですが、この回転数はメジャー投手の中でもトップクラスです。

通常、球速が速いと回転数は多くなります。160キロのフォーシームの回転数が多いことは、容易に理解できると思います。

しかし、今永投手は、92マイル(約148キロ)という速度にも関わらず回転数が多いのです。つまり、他のメジャーの投手と“球質”が異なっているわけです。

今永投手が、メジャーリーグのバッターから多くの奪三振を奪っている理由の一つが、回転数にありました。

そして、今永投手がフォーシームで打者を封じ込めている謎を解く鍵は、この回転数という“球質”以外にも秘密があります。

次は、その秘密について解説します。


メジャーリーガーのスイングの弱点を突く配球
今永投手が、メジャーの打者を封じ込めているもう一つの秘密は、“配球”にあります。

一般的に、高めに投げると長打を打たれてしまうと言われています。長打を打たれないためには、低めに投げることが投手の鉄則ですね。

特にメジャーリーグにはパワーヒッターが多いです。ですから、必然的にピッチャーは、誰もが低めにコントロールしようとしています。

メジャーリーグは、日本に比べて高めのストライクゾーンは広めだといわれます。

しかし、いくら高めのゾーンが広めとはいえ、メジャー選手を相手に高めに投げることは、とても勇気がいることだと思います。

ところが、今永投手は、この高めのゾーンで空振りを奪っているのです。

先ほど、今永投手の“球質”は、他のメジャーリーグの投手とは異なるとお話をしました。

そのフォーシームは、球のスピードと回転数が落ちません。そして、178cmの身長でスリークォーター気味に投じられる球には、高低の角度がつきにくくなります。

逆に、それが幸いしていると考えられます。

つまり、ボールに角度があれば、上から下に向かって落ちる軌道になることが分かりやすいわけです。

一方で、今永投手のボールには角度がないことで、最初から最後まで球は落ちないように見えるのです。

打者から見ると、今永投手のフォーシームは、あたかもホップするような錯視を生み出しているのです。

それが、球速が148キロでありながら、“球質”の異なる回転数の多いフォーシームです。

さらに、メジャーリーガーのバッターの多くが、前述した通りインサイドアウトで、Uの字を描くようなスイング軌道でスイングします。

このスイング軌道の特徴として、インパクトを点で捉えることになりがちです。そのため、横に落ちるような変化球には対応しやすい傾向があります。

ですが、今永投手の“球質”の異なるフォーシームだと、点で捉えることが難しくなるわけです。

つまり、今永投手の活躍の秘密は、次のようにまとめることができます。

  1. メジャーリーガーの特徴的なスイング

  2. メジャーの高めのストライクゾーンの広さ

  3. “球質”の異なるフォーシームを、高めに投げ込んでいく勇気

これらが相乗的に良い効果を生み出して、今永投手の“魔球”の威力を高めているといえるでしょう。


今永投手の成功を支えるメンタルと準備

私は、今永投手が大学生のときに、フィジカルコンディショニングチェックとトレーニング指導を行ったことがあります。

彼は、大学生の頃から将来のビジョンをしっかりイメージできていました。そして、何事にも目的意識と計画性をもって取り組んでいました。

それは、野球だけに限りません。

シカゴカブスの入団会見では、英語で挨拶をしていましたね。

そのあたりも、今永投手らしいと思いますが、メジャー移籍という目標をもち、計画的に英語にも取り組んだのだと思います。


今後も活躍が期待できる秘密

最後に、とても興味深いお話をしたいと思います。

実は、今永投手はメジャーリーグでまだ投げていない変化球があるのです。

おそらく、メジャーリーガー達が、“球質”の異なるフォーシームに対応してくると思います。

そのとき、彼はきっと封印している変化球を、計画的に繰り出していくことでしょう。

これからも、今永投手の“魔球”の威力が続き、大活躍してくれることを願ってやみません。


今回のまとめ

いかがでしたか?

今回は、今永投手がメジャーリーグで大活躍している秘密に迫りました。

他のメジャーリーグの投手とは”球質”の異なるフォーシームと、今永投手のメンタル面の強さが大きく影響していることがわかったと思います。

また、投手に必要なのは球速だけでなく、回転数を上げることで生まれる"球質"の違いが影響していることが理解できたと思います。

それが、打者のバットコントロールを狂わせ、空振りを誘う投球となるのです。

そして、打者のスイングの特徴を逆手に取る配球と、そこに投げ込む勇気の大切さも理解できたのではないでしょうか。

質の高いストレートを投げるためのヒントがたくさん詰まっていたと思います。

今永投手の活躍の秘密を知ったことで、あなたのお子様のスキルアップにも役立てることができるのではないでしょうか。

今回は以上です。

次回もまた、野球の上達につながるアイデアをお伝えしますので、楽しみにお待ちください。

引き続き、野球の上達のために頑張っていきましょう。

野球の上達に関するお悩みや、疑問点などがありましたら、いつでもご連絡ください。

それでは、またお会いしましょう。


【石橋秀幸プロフィール】

広島県出身 日本体育大学卒。
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修卒。 1987年から2002年まで15年間、広島東洋カープの一軍トレーニングコーチ。
1997年ボストンレッドソックスへコーチ留学。
現在は、神奈川大学人間科学部非常勤講師、慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員。
また、2022年11月からホロス・ベースボールクリニック代表として、球児の成長のサポート事業をスタート。
これまでも、プライベートコーチとして、小学生から大人まで、アスリートはもちろん、プロの演奏家へもトレーニングとコンディショニング指導を行う。
講演実績多数。
著書多数。
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