バス待ちこそ、水戸の象徴。
みなさんは、サッカーを観に行く時、キックオフの何時間前までに行きますか。
「試合を見に行くんだから、キックオフまでに席につければいいんじゃないの?」
と思っている人も多いと思います。
もったいない。
Jリーグが生まれて30年。
スタジアムの周りには、食事やイベントなど、色んなクラブが様々な趣向を凝らしてサポーターを楽しませる仕掛けを様々行うようになってきました。
そう行った仕掛けも楽しまないと。人生の3割損しますよ。(しつこい)
で。水戸ホーリーホックの場合、何時間前に行くのがいいのか。
個人的には、
キックオフ約2時間前まで
を推奨しています。
それはなぜか。
水戸のホームゲームにとって重要な儀式、
「バス待ち」
があるからです。
選手の会場入りのバスを待つ行為(以下、「バス待ち」とします)は、いわゆる「出待ち」行為と呼ばれるものです。
こういう類で一番有名なのは、宝塚ですね。
開演時間よりも前に、推しに一目会いたい。
これから始まるステージに向けて、頑張れるように声をかけたい。
あわよくば、推しとお近づきになりたい。etc…
実はエンタメ業界では、報道はされなくともよくある光景です。
ですが。
サッカーだけは違います。
選手の会場入りのタイミングから、チャントと言われる応援歌を響かせ、跳ねる跳ねる。
応援するクラブの選手たちに、勇気と活力を試合前に注入する、大事な儀式なのです。
海外、特にスペイン語ポルトガル語圏で熱い印象を受けます。
ただ、日本では悲しいことに、人が多く集まるような競技場では、バス待ちができない会場も多く。
ガンバのパナスタは完全に例外ですけど、特に最近のサッカースタジアムは、構造上バス待ちが不可能、もしくはできたとしてもめちゃ狭い、という会場が増えてきました。
悲しい。
ところがです。
サッカー界隈ではピッチから席が遠い、などと観戦環境が悪いと忌み嫌われがちな陸上競技場は、地方を中心にバス待ちできることが多いです。
だからこそ、特にアウェイの会場が陸上競技場だったりすると、
「今回はバス待ちできる!!!」
とテンションが上がったりするわけです。
完全にサポーターじゃないと知らない世界感。
で、水戸のホームスタジアムであるケーズデンキスタジアム水戸も、陸上競技場ですので、、
もれなく、バス待ちできるんですよ、、、、、!!!
水戸って、全国的に見ても実は貴重な場所なんですよ。
で、ここから水戸のバス待ちの特徴について書きたいわけなんですが、
その前に、これまでの経緯について少しまとめておきたいと思います。
水戸のホームスタジアムは、笠松時代からずっとバス待ちは一応できました。
ただ、できるとはいっても、選手バスが到着するころに待ち受けているサポーターは、一部のコアなサポーターに限られ、今と比べると人数が多くはなかった。
というか、ファンサならホーリーピッチ(当時の練習場)や後のアツマーレでしてもらえたので、何か言いたければ試合後に選手を出待ちしよう、一般サポはそんな感じでした。
試合前はもっぱら、スタグルやイベントを楽しんだ後、試合開始直前に席に座るサポーターが多かった。
そんな状況に大きな変化が訪れたのは、ほかでもなくコロナ禍でした。
それまで当たり前だと思っていたファンサが、選手との会話が、忽然と、なくなったのです。
水戸サポーターとしては、応援する一番のモチベーションを奪われたような。そんな心境になる人が多かった。
ご時世的なこともあったので、むやみやたらに動き回ることもできない。でも選手に少しでも力になれる行動がしたい。
そんな状況下の中で、数少ないサポーターは、選手バスの動線に、目を向け始めました。
これまでのようなファンサはない。
でもこれなら、少しでも長く、選手を見られる。
幸いにして、ケーズデンキスタジアムはこの写真の通り、ホーム側のチームバスが入るときにロータリーから停車場までスタジアムをぐるっと回る構造でした。
ですので、人との間隔を取りながらも、選手を見つめることができた。
そのまなざしが、観戦状況が徐々に良化していく中で、同じ想いを持つ人が、増えていきました。
コロナ禍になってからのこのサポーターの動きを察知してか、クラブ側は感染を広げない工夫を取りつつ、いかにサポーターを楽しませるかを、考えていました。
それが、2021年のアダストリアサンクスマッチで実現します。
バス待ちの空間を、ファッションショー形式にしてしまったのです。
本当であれば、スタジアムの中にバスを止めるべきところ。
これを、5mほど手前で停車して、そこから選手スタッフが歩いていく形に変えたのです。よく選手を説得できたもんだな、と今でも思う。
でも、こうすることで、以前はごく一部のコアサポだけが参加していたバス待ちが、普通のサポーターでも選手の顔がよく見える、試合前の顔出しイベントへと変貌したのです。
この形は次の試合以降も継続して、今に至ります。
この変更にかかったお金は、わずかに0円。
お金をかけずに、サポーターとクラブ側の相互の創意工夫によって作り出された、美しい風景。
いかにも水戸らしい。
これが、水戸のバス待ちが他のクラブと違うところです。
実際このバス待ちの形に変わってから、バス待ちの空間にいるサポーターの数が劇的に増えました。
時にはお菓子を交換し合いながら、スタメンを見つつ、スタグルを食べつつ、今日の試合どうなるだろう?と予想談議に花を咲かせる。
ちょうど、日常から解放されて、試合に向けて「よっしゃ、いこ!」と切り替わる瞬間。
試合に向けた、丁度いいジャンクション(結節点)であり、予行演習でもある。
ちなみに、このアイデアは小島社長の発案だそうです。(昨年オフ、クラブ主催の座談会でスタッフから聞きました)
そんなバス待ちが、今年大きく変わろうとしています。
今まで競技場の外で出せなかった声が、出せるようになったのです。
その結果がこちら。
太鼓と手拍子だけだった空間に声が乗った時、何かものすごいエネルギーを感じませんか。
水戸で長く勤めていて、河野コーチ講演会での名司会でも知られるスタッフ佐藤さんは、この光景を見て熱いものがこみ上げてきたそうです。
自分も、そうでした。
今年はいろんなことがコロナ禍以前から、元に戻る、そんな年になる気がしています。
でも中には、元に戻さなくていい、今のほうがいいものもあります。
このバス待ちがその典型だと思うのです。
明らかに、コロナ禍前より雰囲気が良くなった。
コロナ禍を経て、よりエモーショナルな空間に、ケーズスタが生まれ変わった。
だから、いまのほうがいい。
茨城ダービーで確信しました。
このバス待ちは、
サッカー観戦が楽しかった!また来たい!
と思ってもらえる一つのポイントになるはずです。
もちろん、運営側にとっては混雑分散にもなって一石二鳥。いいことずくめ。
そういえば、公式HPのビギナーズガイドにも、このバス待ちがしっかりと時間軸に組み込まれていました。
タイパ重視といわれる今だからこそ、あえて世の中に広めたい。
水戸の試合には、騙されたと思って、試合開始2時間前までに来てください。
バス待ちから流れる時間軸の中で感じる、ドキドキとワクワク。
勝ち点3は約束できないけど、タイパを超える充実感を得られることは、絶対にお約束します。
と。
今シーズンは一人でも多く、気兼ねなくサッカー観戦を楽しめる一年でありますように。
Jリーグ30年目、水戸のJ2リーグ24年目のシーズン、開幕です!
P.S.
このバス待ちについては、先述の座談会でお話しさせてもらいました。すごく救われました、と。
構想中の新スタでも、パナスタのように、いや、それ以上の空間でバス待ちができることを祈っています。