「ULTRA SOULMATE 2019」僕らはその時「あの日のファイヤーループ」に居た

2019年の夏に大阪城野外音楽堂で開催されたナードマグネット主催の一大イベント「ULTRA SOULMATE 2019」
その時、僕はグシャグシャのモッシュピットの中に居て、涙が止まらなかった。


あれは2014年頃の事だったろうか。
その頃のナードマグネットは決して今ほどの人気バンドでは無かった。
よくライブをしていたのはキャパ200名ほどの小さなライブハウス「天王寺ファイヤーループ」だ。
とはいえ既に熱狂的なファンを生み出していた。
フロア前方では内気そうな男の子、女の子、そしてアラフォーと思しきおじさんが一丸となってモッシュピットが出来上がり、皆一様に拳を上げて熱くなっていた。
当時発表されたばかりの大名曲「Mixtape」では合唱も巻き起こっていた。
そう、既に全国的な人気者になる兆候は十分にあったのだ。




僕と、現在ナードマグネットが所属するレコードレーベルTHISTIME RECORDSの社長 藤澤さんは、よくその頃のナードマグネットのライブで共にシンガロングして盛り上がった。
藤澤さんが「おいヒデアキ」と、おれを焚きつけて、2人でモッシュピットに同化する。ライブが終わるころには2人とも汗だくだ。(藤澤さんは髭面で巨体だ。当時、不快な思いをした人がいたら本当にごめんなさい)
本人いわく、フロアの熱量を率先して上げるためだったらしい。

その日も会場は「天王寺ファイヤーループ」だった。
藤澤さんはこう言った。

「おい、ヒデアキ。おれはファイヤーループのこの景色のままナードマグネットを大きくするからな。
ナードマグネットは若い子だけのものじゃない、おじさんも熱くなれるバンドにするんだ。このまま、おじさん達も連れて行くんだ」

酒癖の悪い藤澤さんにその日も何杯もお酒をせびられ、僕自身もベロベロに酔っ払っていたが、妙にその言葉が印象に残っていた。

時は2019年。
全国区の人気バンドとなったナードマグネットはKANA-BOONやcinema staff、tetoといった人気バンドも出演する渾身の大型イベント「ULTRA SOULMATE 2019」を開催。
この日は大阪城野外音楽堂という大きな会場にも関わらず満員となっていた。

空はすっかり群青色に変わり、歓声と共にナードマグネットが登場すると思わず近くで見たくなって、ステージ近く前方まで駆け寄ってしまった。(関係者なのに、ごめんなさい。)

その時ふと「藤澤さんと一緒に見たいな」と思った。
あの頃のファイヤーループみたいに、2人で盛り上がりたいと思った。
だけど今じゃ、人気バンドのレーベルの社長だ。
ステージ袖に視界を移すと、藤澤さんがそこに居た。
そりゃ、そうだ。愛する所属バンドの大舞台なんだから。
あんたの居るべきところはそこだ。そこで見守るべきだ。
分かる。分かるぜ藤澤さん!
そう自分に言い聞かせた。

いつかどこかのロックスターのDVDで見たような、そんな感動的な景色の主人公が、我らがナードマグネットだという事実に胸がいっぱいで、ライブはあっという間に後半になった。

それまで前方でライブを見ていたのだけれど、「沢山のお客さんとナードマグネットの姿をこの目に焼き付けよう」と思いゆっくりと後方に向かうと、なんとそこには藤澤さんが居るではないか!
あんた、何してんの?さっきまでステージ脇に居たんじゃないの?
そう思ったのも束の間、
「おいヒデアキ、何してんだよお前。前に行くぞ!」
藤澤さんはおれを最前のモッシュピットに連れて行く。

いま演奏されているのは大名曲「Mixtape」
”ウィーアーインフィニ”の大合唱が終わり、ふじーくんのギターソロが始まった。
この曲のいちばんの盛り上がりどころ、カタルシスが最高潮の瞬間だ。

僕と藤澤さんは最前近くで揉みくちゃになっていた。
内気そうな男の子、女の子、アラフォーと思しきおじさんが、ひとまとめにグシャグシャになって、泣きながら合唱している。

ああ、そうだ。この景色は前にも見たことがある。
これは、あの日のファイヤーループと何も変わらない。
藤澤さんはあの日僕に言っていたことを実現してしまった。

ナードマグネットは、そして藤澤さんは、数千人が集まったこの日の野音を「あの日のファイヤーループ」にしてしまった。

須田くんがMCで言っていた。
「過去に出演してきたライブハウスとこの野音は同じ道で繋がっている」。それを眼前のこの光景が証明している。
ナードマグネットはあの日から誰一人残すことなく、ここまで一緒に歩いてきたのだ。

そんなことを考えながら、僕はグシャグシャのモッシュピットの中に居て、涙が止まらなかった。

それから数時間後。打ち上げ会場で、モッシュピット振りに藤澤さんに再会したんだけど、なんて言ったと思う?

「おい、ヒデアキ!さっきはすごかったな!
おれ、昔のファイヤーループ思い出しちゃったよ!」
だってさ。

やっぱり僕らはその時確かに「あの日のファイヤーループ」に居たのだ。


画像1

2014年にファイヤーループにて撮影したもの。
左からHOLIDAY! RECORDS植野、ストライクスリー!ヒロユキさん、THISTIME RECORDS藤澤さん

※天王寺ファイヤーループはその後改名し、現在は「寺田町ファイヤーループ」となっております。


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