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日記┊2023.12.4~12.10
2023/12/04(月)
昼過ぎに映画館のまえでKさんと待ち合わせ。観たのは、藤井道人監督『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』。物語後半になって、畳みかけるように難解になる。とはいえ、事前に宮台真司さんによる補助線があったので、ずっとわかりやすかった。ポスト・ヒューマンの主張じたい、宮台さんの加速主義とかなり似通っている。「一人に一つのメタバース」とか「島宇宙化」って概念とも重なる。でもやっぱりまだ整理しきれない。
映画を観終わって、すぐ近くの喫茶店に二人で入った。アンティークの雑貨類が所狭しとならぶ、どこか異界の雰囲気がただよう店。席に食器が置いたままで、店内にはだれもいなかった。夢のなかに迷い込んでしまったような心地。
上階で何かの展示をやっていたので行ってみると、店主と思しい女性と、展示物の作者がいた。流されるまま展示へ案内され、作者に解説されながら、展示作品を見てまわった。人形や鳥籠など、どれも退廃的でおどろおどろしい。「がらくた」と作者のひとが自嘲して言っていた。たしかに何か用途があるわけではないが、それぞれに独自の世界観を感じ、どこか惹きつけられるものがある。「ヤン・シュヴァイマイエルに声をかけられて~」と話のなかで聞き、言われてみればヤン・シュヴァイマイエルの『アリス』なんかの、幻想的で残酷な作風を彷彿とさせる。彼の名前が出てくるとは思わず驚いた。Kさんがどうだったかは分からないけど、喫茶店の雰囲気も含めて、異界を巡る感じで楽しかった。
下の喫茶店に戻ると、もと通り店主もお客さんもいた。二人ともウインナーコーヒーを頼む。ぽつぽつと話した。それにしてもいつも、「なんで自分なんかを誘ってくれるのか?」と不思議。Kさんが病み上がりだったそうなので、コーヒーをのんで早めに解散した。
2023/12/05(火)
また変な時間に寝落ちして、バイトにちょっと遅刻してしまった。店長なのか、なんか偉い感じのひとにちゃんと注意された。もうちょいしっかりしよう、という気持ち。
帰りに精神科へ。心理検査の結果をもらった。発達障害の診断は下りなかった。得手不得手のギャップがかなり大きいらしい。言語能力と抽象的思考が平均より非常に高く、作動記憶というのが平均より低め。気質と環境的要因によるということだった。失意と安堵が相半ばする感じ。精神障害が原因でないのであれば、たんに経験や自助努力の欠如ということになり、言い訳(と言うと語弊があるかもだけど)ができなくなる。その一方で、努力や経験でどうにかなるのであれば、いろんなことを諦めずにすむかもしれない。たぶん失意のなかには、自分は他人と違うかもしれない、という浅ましい期待があった。天才じゃないんだから、コツコツ積み重ねてがんばってくしかない。
帰宅。お酒をのみながら映画をみてた。コーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』。登場人物がみんな馬鹿で間抜けでカスばっかりで、爆笑しながらみてた。『ファーゴ』よりも比較的明るめのコメディ作品。事件がどんどん複雑になってゆくのも引き込まれる。結局暴力で解決しちゃうのも笑った。
2023/12/06(水)
朝方に眠り、夕方に起きた。ひとと話すのに疲れたので、しばらくは会話をしたくない。
黒沢清監督の『降霊』をみた。音響技師の夫と、霊能力を持つ妻。二人は思いもよらず、ある誘拐事件に間接的に関わることになる。このあたりは物語が一気にサスペンスの様相を呈する。カメラが妻をとらえているところに、とつぜん女の子を抱えた役所広司(夫)がヌッと入り込んでくるシーンはさすがにギョッとした。中盤以降、ふたたびJホラーらしい展開に立ち戻る。もともと僕はホラー映画を怖がれる質ではないけれど、久しぶりにちゃんと怖い映画をみた。
2023/12/07(木)
朝まで起きてい、昼から夕方までバイト。今日は遅刻しなかった。Mさんと二人。自然に話せたので良かった。あとは働きながら、公募の掌編と書き途中の長編のアイデアをぽつぽつ出したくらい。
帰って映画をみた。クリストファー・ノーラン監督『インセプション』。宇多丸師匠なんかの酷評を聞いていたので正直ちょっと舐めていたけど、思いのほか面白かった。アイデアの新鮮さや映像の新奇さに引き込まれる。今作については今敏の『パプリカ』からかな、とは思うけど。ただ、前半の説明パートがあまりに長くて冗長なうえ、その間はストーリーも停滞しているので退屈。夢のなかにも、第一階層、第二階層と深さがある、という設定は面白かった。この夢の階層性って舞台立てを使った三視点の繋ぎ方も作劇として巧み。その手があったか、と膝を打った。
2023/12/08(金)
もっと早くに起きるつもりだったけど、からだが重すぎて昼前にベッドから這い出し、バイト。夕方まで。
帰宅。ネット開通キットが届いた。試してみたものの、まえの住人のせいなのか、光コンセントが使い物にならなくなったので断念。怒りのふて寝。
2023/12/09(土)
寝落ちしてしまい朝シャワー。昼過ぎに家を出て、大阪へ向かう。神聖かまってちゃん・聖なる交差点ツアー。umeda Trad。もう何度も通っているライブハウスなので、道順もだいたい覚え始めている。風俗店やラブホテルの密集する景色も嫌いじゃない。
今日のライブはソールドアウトで、満杯だった。二列目の真ん中らへん。の子さんの目の前。後ろのひと見えないかも、とあとで後悔したけど、ライブが始まってみれば関係なくなった。でもコートはクロークに預けとけばよかった。
久しぶりにすし詰め状態のライブ。五年前、初めて行った神戸のライブを思い出した。の子さんが何度もダイブするので、汗と熱気に取り巻かれながら観客同士で押し合いへし合いだった。これぞライブだな、という熱量。の子さんの投げたピックが、二回ほど身体に当たった感触があったけど、とれなかった。「黒いたまご」や「聖マリ」、「Girl2」など、前半はほの暗いグルーヴ感をまとった曲が多く、全身で陶酔するように聞いていた。「自分らしく」からまた色合いが変わり、いつもより早めの「フロントメモリー」も新鮮だった。アンコール明けの「ロックンロールは鳴り止まないっ」。声を嗄らすほど思い切り合唱した。やっぱりライブ会場でしか精神解放できる場所はない。ラストの「23才の夏休み」。ライブ会場はすでに真夏の暑気で、全身汗だくだった。
終演時間が過ぎて尚、の子さんが「きっと良くなるさ」を歌うなか、担ぎあげられて強制退場。自分と他人の汗が混じりあった熱気と、心地よい疲労感。
終演後、青木さんのアナウンスが流れるなか、の子さんが二階の窓から顔を出して呼びかけてくれ、ふたたびコール&レスポンスが轟く場面もあった。さすがのサービス精神。
家に到着したころ、の子さんのコラボキャス配信が始まった。の子さんとファンのひとたちが話すのを、微笑ましくにこにこしながら見てた。
2023/12/10(日)
自転車を十数分走らせ、ライブ会場に到着。京都Router×2。初めての箱だった。神聖かまってちゃん fc side story。百人限定のファンクラブライブ。
百人限定とあって、こぢんまりとしたライブハウス。チケット取るのちょっとミスって、今日はちょうど、全体の真ん中らへんの席。みんな生粋のヲタクばかりなんだな、と思うと感慨深い。
昨日とは打って変わって、お酒を片手にゆったりと聞いていた。今回のセトリはレア曲ばかり。MCでの子さんも言ってたけど、すごくホーム感のある現場。久しぶりに「このバトンを海に思いっきり投げて」を聞けた。それから、monoくんのリクエストで「おっさんの夢」、みさこさんのリクエストで「2年」をアドリブでやってくれた。お客さんも少なめだしダイブはないかな、と思っていたけどめちゃくちゃダイブしまくってて、お客さんのうえを泳いでてウケた。僕もの子さんのからだを支えたりしてた。アンコール明けのラスト一曲。まさか、と期待した通り「涙くん、今日もおはようっ」をやってくれた。「君を一人にさせない音楽があるから」って、まさに僕にとっての神聖かまってちゃんそのものだなあ、としみじみしていた。「となりにいてあげるから/となりで歌ってみせるから」って歌詞も、の子さんがファンに対して言ってた、俺が幽体離脱してそばにいてやるよ、ってのを想起させられる。まったく毛色の違うライブを二日続けてみられたことの多幸感。ほんと毎日でもライブに行きたい。