バッグの里帰り
先日の休日は、愛車を半年点検に連れていった。社会人になった頃から、全く体調を崩すことなく、私を毎日会社に連れて行ってくれた、実に優秀作な車だ。
ただ、ここ数年調子が悪くなり、ガソリンのメーターも、満タンにガソリンは入ってるのに、ほとんどemptyを指しているし、トランクも自動で頭上に落下してくるようになった。
私の働き方が変わったのを機に、現段階では車があまり必要なくなってしまっていて、この点検を最後に愛車とお別れしようと、考えながら車に乗り込もうとした瞬間、社会人になってからずっとのもう一人の相棒、牛革のショルダーバッグのフロント部分のファスナーが壊れていることに気付いた。
カパッと前側のファスナーを開けたまま、車やで点検が終わるのを待っていたら、エンジンオイルまで車の底から漏れてきていると整備士の方から告げられた。
これは、もう、本当にお別れの時が来たに違いない。
とりあえず応急措置をしてもらい、その日は帰宅した。
問題は、このお気に入りの鞄だ。この鞄の代わりはどこを探しても絶対にいない。
さて、どうしよう。
このショルダーバッグは、『天空の城ラピュタ』のパズーの鞄と姿形は異なるのだけれど、パズーと一体化していて、映画のラストでパズーから切り離される瞬間まで全く気にかからないのと同じくらい、私と一体化してきた鞄なのだ。
パズーはシーターを救う過程で鞄とお別れしたが、私の場合はファスナーの問題だけでまだ使える。しかも、私と共に単に年を経たのではなく成長し、薄いベージュからあめ色になって、人と同じでキズや汚れも含めそれがあるからこそ、いい風合いに育った革になっている。
鞄を作ってくれたお店は、きっと修理してくれると思い、電話してみることにした。
この鞄を作ってくれたのは、ご夫婦で営まれているとても小さなお店で、一点一点、丁寧にお二人で革製品を手作りされている。
私の鞄は、おそらく奥さんが作られたものだと思うのだけれど、年齢や時代関係なく使える、オーソドックスで、素敵なコロンとしたものだ。
この鞄に出会ったとき、すごく気に入ったが、価格(決して高くはないのだが、社会人に成り立ての者には悩ましい値段)と果たして使い勝手はどうなのか悩み、一度は購入せずに店を後にしたが、気になってどうしよもなくなり、またすぐに戻って購入した。
私が戻ったとき、奥さんがすごく嬉しそうに笑っていた。
電話すると、案の定、奥さんはすぐに修理すると言ってくれた。
私はその次の週末に、その鞄を里帰りさせた。
それから数日後、鞄は戻ってきた。
すっかりファスナーも直って、より艶やかになって。
奥さんが同梱してくれていた手紙が嬉しかった。
私は、この鞄のパートナーであり、育ての親なのだ。
十年、二十年…私は後何年生きるか分からないけれど、この鞄と共に、泣いたり笑ったり、誰かや何かと出会ったり、興奮したり、飛んだり跳ねたり、転んだり、もっと色んなたくさんの経験をしながら生きてゆきたいと思った。