【短編小説(?)】 『タイムリミット』 vol.3
突然ですが皆さん、ご自身はあと何年生きると思いますか?
周りからは「若い」と言われているけど、それは果たして「時間がたっぷりある」という事なんでしょうか。
平均寿命というものが存在しますが、決してそれはあくまで平均。「その年齢までは生きる保証」ではないのです。
もしあなたが神様から「あと1年であなたは死にます。」と言われたらどうします?
これは、もし生まれる前に誰かから、「あなたは◯歳で死にます」と言われてから生まれてくる世界があったら・・・という物語です。
*登場人物
私・・・17歳の可もなく不可もない女子高生。75歳で亡くなると生まれる前に知った。
兄・・・22歳のサラリーマン。妹の私をとても可愛がっているが、いつ死ぬのかは教えてくれない(vol.2参照)。
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私は気になっている。兄はいつ死ぬんだろうか。私より先なのか後なのか、はたまた同じなのかもしれない、、、
基本的に自らの寿命を公表しなければならない義務はありません。また、絶対に秘密にしておく必要もありません。個人の自由として国からも保証されています。
私の家庭では、お互いの寿命は教え合わないというルールを作っています。「終わりの時間」を知ってしまうと、辛い日が多くなってしまうからという母親の提案です。
確かに、刻一刻と死への時間が迫っている事に変わりはないのですが、その最期を知っていると更に苦しさが増すような気がしてやまないはずです。
それでもやっぱり私は兄の寿命が知りたい、、、理由は分からないけれど。
そう考えながら、私は駅で電車を待っていました。言ってませんでしたが、私は電車通学です。いつも20分くらい電車に揺られて学校へ行きます。
そのはずなんですが、、、
あれ、今日はやけに電車来ないなあ。来ないと遅刻しちゃうんだけど。
その時、駅内に放送が流れてきました。
「7時40分に到着予定でした電車は、前駅での人身事故発生により大幅に遅延しております。ご乗車のみなさまには多大なるご迷惑を・・・」
マジで??そんなの遅刻確定じゃん。どうしよう、家は今誰もいないし、、、
結局私は、呆然としていた同じ学校の生徒達と相乗りでタクシーに乗って学校まで行ってなんとか遅刻を免れました。まったく、とんだ出費だよ。
学校に到着し、朝のホームルームの時間に先生からこんな言葉が。
「今日の朝、市内の駅で自殺未遂があった。うちではないが、市内の学校の生徒らしい。」
そう言って先生は自殺はダメだとかなんだとかって話をしていました。
きっと私が乗る予定だった電車だ。前の駅って事は意外と近くの人なのか・・・?
物騒な話ですが自殺未遂というのは、私達の世界ではそう珍しい事ではないんです。デッドイヤーに入った人たちが、「もうすぐ死ぬ」という運命の恐怖に耐えられずに自殺を図ってしまう事は少なくないんです。
でも今回は自殺未遂って、亡くなってないんだね。
私が学校から帰ってくると、母親が真っ青な顔で駆け寄ってきました。
「町内のB君、自殺したんですって・・・・?」
え、B君、、、?
私は一瞬体が固まってしまいました。B君は私の町内に住んでいる同級生で、小中と同じ学校でした。高校は別々になってしまいましたが、ちょくちょく会ったり遊んだりする仲です。
「そうだったの?すぐに病院に行こう!まだ生きてるよ!」
そう、B君はまだ生きている。だって”未遂”なんだもん。
慌てて私たちの町内では行きつけになる病院に行き、B君の病室まで案内してもらいました。良かった、まだ生きてたんだ。
病室に入ると、心を失ったような顔をして横になっているB君の姿が目に写りました。B君は私が来たことに気づいて、
「あ、来てくれたんだ。」
とだけ言って身体を起こしました。
私はただ、大丈夫だったのかと聞きました。するとB君は寂しい笑顔で
「この通り、目立った外傷もないし、頭もはっきりしてるだろ?ただ、右足だけ切ったんだ。もう残しててもただ壊死するだけだって言われてさ。」
B君は右足こそ切断したものの、それ以外には大きなダメージを受けることなく済んだのだ。
良かったのか、いや、そんなことない。どうして自殺なんて、、、私は本当に彼に聞きたいのはそれだけだ。
「自殺する理由なんて、1つしかないだろ?自分が生きている事に価値もメリットもないと思ったんだよ。」
どこか飄々とした口調のままB君は話を続けます。
「学校行っても貧弱は僕は、いつもみんなの心と体のサンドバッグさ。弱そうだからって理由でみんなにいいように使われて、むしゃくしゃしたら殴られて・・・家でもそうだ。君と同じ高校に行きたかったけど、受験落ちて、結局私立行きになってからというもの、僕のことを出来損ないだとか、金の無駄だとかって毎日罵声が飛んでくる。そりゃ、僕は大して運動も勉強も出来ないし、これっていう取り柄もないだろ?だけど、生きてるくらいいいだろって思ってたんだよ。そんな僕でも、生きていい権利くらいあるだろって、、、ずっと堪えてたけど、もう我慢できなかった。寿命はまだあるけど、もしかしたら、どう考えても人間は生きれないような事すれば死ねるんじゃないかって思ったんだけど、結局ダメだった。神様は僕の願いなんか1つも聞いてくれなかったんだ。」
あまりに流暢に話すB君の口調や仕草からは、どこか自分の人生に対する諦めの態度が現れていました。
寿命には逆らうことはできない。だとしたら、彼は命果てるまでこれまでと同じ仕打ちを受け、更には片足を失って生きていくしかない。苦しい世界から逃れようとした結果、もっと苦しい状態にされてしまったのだ。
私は彼にかける言葉はありませんでした。”きっとこれから幸せは来るよ”なんて言ったら間違いなく彼の逆鱗に触れるでしょう。”お大事に”とだけ言って私は病室を後にしました。
寿命がすでに決まっているなら、その時間は幸せを探しながら、苦しみに耐え続けるしかないのです。B君は自分の人生から逃げようとした。だから天罰が降ったのだ。そのように捉えるのが妥当なのでしょうか?
ならば、”逃げる”事は悪なのでしょうか?誰もがこの感情を持ちながら、堪え続ける人生を送っています。堪え続けていつか爆発してしまうよりも、上手く障害を避けながら進んで行く方がよっぽど正しい生き方だと思うのですが、、、
そんな事を考えながら、私はベッドで眠りにつくのでした。