北の音り - Kita no Tayori - Vol.3 小串俊寿さん

 「北の音り -Kita no Tayori-」は、様々な方面で活躍されている北音会同窓生をご紹介し、山形県立山形北高等学校音楽科の魅力を広く知っていただくためのインタビュー記事になります。
 第3回である今回は、サクソフォーン奏者の小串俊寿さんにお話をお聞きしました。

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 小串さんは山形県鶴岡市のご出身で、東京音楽大学教授、昭和音楽大学客員教授として教鞭を執られながら、ソリストとして、また東京シンフォニエッタやアンサンブル等多方面でご活躍されております。

 そんな小串さんから色々なお話をお伺いしました。


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〇北高を目指すきっかけは何ですか?

 中学校3年生の進路を決定しなければいけない時期に、自分が何を学びたいかということを考えた結果、当時からとにかく音楽が大好きでしたので、音楽の道しかないと思いました。地元が鶴岡なのですが、同郷で山形北高の音楽科に進学した先輩がいらっしゃったので、色々と話を聞き、「音楽を専門的に学ぶならここしかない」という想いで山形北高音楽科の進学を決めました。そして、当時は部活動でサクソフォーンを吹いていましたが、全く上手ではなかったので幼少期から習っていたピアノ専攻として進学しました。


―進学先が実家から遠く、そして男性が音楽を学ぶことについてご両親から反対等はありましたか?―

 特に表立った反対をされた記憶は無いですね。しかし、父は男である私が音楽の道に進むことをあまり快くは思っていなかったようで、父は県立病院の院長だったのですが、自分と同じ道に進んで欲しいと思っていたのかもしれません。そんな父を説得してくれたのが母でした。その話は大分時間が経ってから母から聞かされたのですが、私は全然知りませんでした。とにかく当時の私は音楽を学びたくて山形北高音楽科に進学する道しか考えていなかったですね。好きな道に進ませてくれた両親には感謝しています。

―ピアノ専攻で入学されたとのことでしたが、サクソフォーンを専門とされるまでにどのような経緯があったのですか?―

 ピアノ専攻ではありましたが、「合奏」という授業でサクソフォーンは吹き続けていました。しかし、当時サクソフォーン専門の先生がいなかったため、当時のクラリネットの先生にレッスンしていただいていました。そして、高校2年生の時にアメリカ建国200年の記念で「全日本高校選抜吹奏楽団」を組むオーディションが有り、運よく合格することができました。全国から集まった素晴らしい仲間達とアメリカ演奏旅行に参加したことがきっかけでハートに火が付き、サクソフォーンに転専攻したのです。「やはり俺はサクソフォーンだ!」と決断した瞬間です。ですが先ほども言いましたように当時の山形北高音楽科にはサクソフォーンの先生がいませんでしたので、そのオーディションで審査員をされていた当時東京藝術大学サクソフォーン科教授の阪口新先生にお願いし、月に1~2度東京に通ってレッスンをしていただいていました。阪口先生の甘く柔らかいサウンドにはいつも感動していました。今でも私の憧れの音色です。
夜行バスや夜行列車での東京への旅は、大変でしたがとても楽しかったですね!

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パリ国立高等音楽院 ダニエル・デファイエ教授とサクソフォーン科クラス写真


〇高校時代の思い出を教えてください。

 高校時代はとにかく楽しかった思い出しかないですね。嫌な思い出なんて何一つ無いです。毎日が本当に楽しかった。実家が離れていたので、学校の近くに下宿をしていたのですが、朝の6時30分頃にまだ開いていない学校に行き屋外で練習して、7時頃学校が開いたら練習室で練習しました。今考えたら近所迷惑ですよね(笑)。8時頃になったら一旦下宿に戻って朝ご飯を食べてから登校していました。そのおかげでよく遅刻していました(笑)。そして放課後は学校で練習して、学校が閉まったら近くの馬見ヶ崎川の河川敷で練習する、こんな毎日を過ごしていました。阪口先生から与えられた課題が膨大過ぎて、それくらい練習しないとこなせなかったんです。でもとにかくサクソフォーンを吹きたくて吹きたくてたまりませんでしたね。
 あとは、仲間と切磋琢磨しながら頑張り合っていたことが財産ですね。当時は携帯電話もパソコンもCDなんて便利な物は無いし、音楽を聴くのもレコードかカセットテープの時代でした。だから音楽を聴く時は男友達とよく一緒に聴いていたし、その距離感がすごく楽しかったですね。私の学年は男子が7人もいたんです!(笑)とにかく仲間との時間が楽しかったですね。そして先生も素晴らしかった。私たちクラスの担任、今川先生は何も細々したことは言わずにいつも笑顔の先生だったのですが、とにかく一人一人をよーく見てくれる先生でしたね。自由に、好きにさせてくれるのですが、ちゃんと見守ってくれている、そんな環境がありがたかったですね。音楽科のそういったハートのある情が深い先生方から教わることができたのも素晴らしい時間でした。先生方には感謝の気持ちで一杯です。
高校時代は壁にぶつかることも多かったですが、その色々な経験が点と点で繋がって自分の「物語」になっているような気がします。この自分のストーリーはとにかく楽しいものでした。

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小串ソロアルバムレコーディング 指揮のA.リード先生と


〇小串さんは実際に音楽を教える立場でいらっしゃいますが、音楽を学ぶ意義はどんなところにあるとお考えですか?

 私が教鞭を執っている東京音楽大学、昭和音楽大学の学生達も、音楽を専門的に学んでいますが色々な進路に進みます。演奏家になる人はもちろん、教育界や音楽業界、一般企業に勤める人、様々です。でもそれぞれの立場で音楽を続けている人がほとんどです。音楽は人の心を豊かにします。音楽を学んでいてマイナスになることは一切無い。音楽にふれることで元気づけられて涙が止まったり、逆に感動で涙を流したり…そういった力が音楽にはあると思います。今はコロナ禍で演奏会やイベント、コンクール等が中止になったり、部活動が縮小されている現場もあるかと思いますが、部活動でもそういった音楽を経験することで、音楽面だけでなく人と関わることの大切さだったり、優しさ、気遣い、協調性、人間としての礼儀作法も学べるのだと思います。何より心が育まれます。こういう時期だからこそなおさら音楽の大切さを実感できますね。私もいまだに演奏会のキャンセルもありますが、やっぱり人前で演奏すると「これが音楽だよなぁ」と幸せに感じます。音楽には「答えが無い」からやめることができないのかもしれませんね。若い人は色々な壁にぶつかると思いますが、それらの経験は時間が経ってから必ず実りとなって、自分の物語の1ページになると思います。私は今でも壁にぶつかっていますが(笑)。音高・音大に行って、音楽家になるもヨシ、ならぬもヨシ。とにかく「好きなこと」「学びたいこと」を、とことん追求するのが一番です。とにかくどんどんチャレンジして欲しいですね。

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東京音楽大学サクソフォーン科の学生達と


〇現役生へのメッセージをお願いします。

 失敗した数だけ成長し、失敗すればするほどビッグになると思います。まさに「失敗は成功のもと!」上手くいく時もあればいかない時もある、これは紙一重です。失敗した後悔よりチャレンジしなかった後悔の方が後々悔まれるものです。とにかくチャレンジしてください!焦らず慌てず、最後まで諦めず!そしてどんな逆境も乗り越えて、たくましく生き抜いていって欲しいと思います。


〇北高の入学を考えている人へ、メッセージをお願いします。

 音楽が大好きで学びたいのなら山形北高音楽科へ入学することを強くおすすめします。音楽科ではしっかりとした「基礎」を作ることができます。家を建てる時も基礎が不安定だと後から必ずガタがきます。その基礎を北高では学ぶことができるのです。私の音楽家としての基礎もここで学びました。東京に行っても、フランスに行っても、北高での学びが基礎となっていたからこそ深く学ぶことができました。北高の先生方は親切丁寧に愛を持って導いてくれます。北高は、音楽を「大好き」から「もっと大好き!」に変えてくれるところだと思います。


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小串俊寿さん プロフィール

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小串 俊寿 (おぐし としひさ)
1960年1月1日生まれ 山羊座 B型
山形県鶴岡市出身。
1975年鶴岡市立第一中学校卒業、1978年山形県立山形北高等学校音楽科卒業。
1982年東京藝術大学卒業。1984年パリ国立高等音楽院を1等賞で卒業。
サクソフォーンを阪口新、大室勇一、ダニエル・デファイエ、ジャック・テリーの各氏に師事。
現在、東京音楽大学教授、昭和音楽大学客員教授として後進の育成に情熱を注いでいる。現代音楽ソリストグループの東京シンフォニエッタメンバー。
エジプト・ALEXANDRINA CONTEMPORARY MUSIC BIENNALE、
オランダ・アムステルダム「ガウデアムス音楽週間」等に出演
一般社団法人・日本サクソフォーン協会副会長。
公益社団法人・日本吹奏楽指導者協会(JBA)理事。

☆主なソロCD/
*ハッピー・サックス・コンサートがそのままCDになった
「HAPPY SAX CARNIVAL」(OCD-0081)「HAPPY SAX PARADISE」(OCD-0082)
*アルフレッド・リード氏との共演によるソロアルバム
「SUPER SAXOPHONE with SUPER BAND」Vol1(NB-101)・Vol.2(NB-102)
*バラード集「The Ogushi’s Ballad」(WM-0529)
☆主な著書/
*「いちばんやさしいサクソフォーンレッスン」(オンキョウパブリッシュ)
*「サクソフォーンスケールレッスン」(オンキョウパブリッシュ)
*「サックスを吹こう」(中央アート出版)
*「ハッピー・サックス!」監修(音楽之友社)

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