きのホ。楽曲『シンドローム』の”昨日の星”を追って
■最初に
今年2024年の4月初頭に、きのポの楽曲、シンドロームが配信リリースされた。疾走感があり、三味線のようなギター、辛辣にも聞えるが実はキャッチーなメロ部分の歌詞、そして一変してフロアをまとめ上げるようなサビと、惹きつけられるブリッジ。
本稿は特にブリッジの歌詞について、過去の天体・気象データに基づきながら考察を進める。そんなアプローチを真面目にしたとちくるった長文である。
最新アルバムに新録された曲にまつわる話ではなく、読まれる方には非常に申し訳ない。
シンドロームという曲もとても良いし、アルバムも聞き倒して、ライブに行ってほしいので、「何故かいい年した子持ちおじさんがいきなり意味の無い長文を書く」という謎の行為に出るほどの何かが楽曲、グループにあるのだと思っていただけると幸いです。
●オフィシャルHP
●最新アルバム(シンドロームも入ってますよ!!!)
何を考察していくかというと、シンドロームという楽曲のブリッジ部分
長い夜の帳下り
明けの明星が綺麗
でもあれは昨日の星
この中に出てくる、この「星」とは一体何なのか?
ただそれだけである。
でも
「明けの明星(みょうじょう)って聞いたことあるけどなんだっけ?」
「昨日の星って、いったいどういうこと?」
って思いませんか?思いますよね?
では一緒に考えていきましょう。4000字くらいお付き合いください。
考①:昨日の星 惑星及び恒星との距離
「昨日の星」、これはいったいどういう意味か?綺麗な明けの明星を見ているんだけど、昨日の星なのねあなた、という歌詞。これを星の観測という観点から考えると
・地球とその星の距離のため、観測出来ている光が昨日時点でその星が
発した光となる、そういった星
であると考えられる。
各太陽系惑星及び太陽系外恒星と地球との距離を見てみると、先ず太陽系外恒星については最も近いケンタウルス座α星でも4光年以上離れており、「昨日の星」としての観測は不可。
太陽系惑星においては、長くても土星の1時間強、短いものでは数分前の光(太陽からの反射光)を観測することになる。
◆地球との距離
<太陽系惑星>
水星:6~8光分
金星:2.5~8光分
火星:4~13光分
木星:30~40光分
土星:70~80光分
※天王星、海王星は肉眼で観測困難なため除外
<太陽系外恒星> ※地球に近い順
ケンタウルス座α星:4.3~4.4光年
バーナード星 :5.96光年
つまり「昨日の星」は
・太陽系惑星に限られる
・水星~土星の各惑星と地球との距離による時間差を考慮しても
観測可能な星
ということになる。
考②:明けの明星 昨日の星との関係
「明けの明星」は『明け方南東~東の空に見える金星』を指す言葉である。
ここで考①で述べた金星と地球との距離を見ると、金星と地球との距離は2.5~8光年である。我々が明け方に観測する明けの明星は、数分前に金星が反射した太陽光ということになる。
この時点で「明けの明星」と「昨日の星」を両方同時に満たすことは不可となる。
・明け方の数分前は、すでに今日であり昨日足りえない
・両方の条件を見たすには地球から約300光分程度の距離(夜明け時点の
星の光が昨日発せられたものである場合の距離)に金星が必要
残念ながら、考①、②より、『明けの明星が同時に昨日の星』であることは否定されてしまった。
しかし、ここで諦めることは出来ない。ここからは少し楽曲歌詞の成立の過程も考察しつつ少しずつ条件を加えながら追っていこう。
■本格的に昨日の星を追う① ~昨日の星 とはどの星か~
シンドロームは2024.4月にきのホ。の5thシングルとしてリリースされているが、その成立を追ってみるとWEB上では2015までさかのぼることが出来た。
ハンサムケンヤ氏の楽曲としてのシンドロームはこれ以前に作詞されているはず。
音楽家でない私が邪推しても詮無いことではあるが、楽曲の歌詞というのは、一気に作り上げることもあれば長い時間をかけて核となる断片的なフレーズやセンテンスが肉付けされるようなこともあるのではかろうか。
相当な過去に思いついていたフレーズが作詞の際にフラッシュバックしてよみがえるなんていうこともあるのかもしれない。
よって、リリースされた楽曲の歌詞について作者がいつこの世に生み出したものかを特定するのはとても困難であると言えよう。
きのポ版のシンドロームが収録されている5thシングルのジャケットデザインを氏が担当され、明けの明星が描かれている。歌詞のフレーズも実物の明けの明星が見られる頃に浮かんだのではないかと考えてみる。
ここで話を前にすすめるため、やや強引ではあるが歌詞の成立年代は
・2011年~2015年
と仮定することとする。
※2011年は氏の1stミニアルバム「これくらいで歌う」の発売年
対象の年はこれで決まった。では、より詳細に追う条件を決めていくこととする。『明けの明星と昨日の星を両方同時に満たすことは不可』というのは前述した通りだが、条件を緩和して考えてみる。つまり、「明けの明星」条件と「昨日の星」条件を一気にではなく、1つずつ満足させ、足し算で2条件を満たす方法を探ってみることにした。
条件A(明けの明星) : 日の出の際に南東~東の空に金星が観測可能
条件B(昨日の星) : 24時0分~n分※で観測可能
※考①にある地球からの距離による
しかし、ファンの一人として歌詞の内容を考慮して、条件を見直したい。 「明けの明星が”きれい”」という歌詞から、星空が街中においても照明の影響を受けにくく綺麗に見えるよう条件Aを下記に修正する。
条件A : 日の出の際に南東~東の空仰角30度以上で金星が観測可能
条件B : 24時0分~n分※で観測可能(再掲)
では、この条件A、Bを同時に満たす日に歌詞のフレーズが生まれたとしてその日を追っていきたい。
しかし、早くもここで残念な事実がある。
金星が条件Bを満たすことが不可能なのである。
金星は「水金地火木土天」とあるように、太陽系において地球より内側に存在するため、”地球から見ると常に太陽の側にある”ということになる。
一番太陽が遠い状態である真夜中(24時0分~2.5分)に金星を観測し得ないのだ。
(極地に近ければ可能かもしれないが、少なくとも日本において考えると)
ここで、本考察のタイトルに奇しくも戻ることとなる。
条件Aについては明けの”明星”であることから金星ということは変えずに、明けの明星が観測された日に条件Bを満たす星は果たして存在するのか。存在するとして
「明けの明星が綺麗な日の、昨日の星とは一体どの星だったのか?」
これを探っていくこととしたい。
■本格的に昨日の星を追う② ~シラミツブシ~
網羅的に2011~2015年の5年間を調査するのも大変だ。
そこで条件Aのほうが限定的であるため、条件Aから調査することにする。
過去に
・明けの明星が日の出30分前に仰角30度以上で観測出来た日程
を参考先サイトにて調べた。
<2011年~2015年における調査結果(一次調査)>
2011年 1月初頭
2012年 7月下旬~10月半ば
2013年 該当無し
2014年 該当無し
2015年 9月半ば~12月半ば → 楽曲リリース日を超えるためNG
参考:
かなり対象は絞られてきた。
ではここからは、上記一次調査の結果をもとに条件Aに適合する日程をより詳細に抽出→条件Bに適合する星があるか、その星は何かを調べるという方法で下記サイトにて、年月日や時間を変えつつ行った
<調査>
■固定条件
・観測地点は 京都 とする
■条件Aに関して
・一次調査を参考に前後日程をしらみつぶしにし
日の出時刻に金星が南東~東に仰角30度以上で存在する日を抽出
■条件Bに関して
・条件Aにて抽出された日の0時00~0時n分にて観測できる惑星を抽出
(惑星によってnが異なる)
<調査結果>
■2011年
・条件A該当日
1/1~1/15
・条件Bを満たす星
土星 (70光分の距離のため1時10分までに観測出来れば良い)
※土星出時間 1/1 0時31分 ~
1/14 23時39分(1/15 0時0分には出ている)
→ よって、2011年の昨日の星は 1/1~1/15の「土星」
■2012年
・条件A該当日
7/13~11/10
・条件Bを満たす星
木星 (30光分の距離のため0時30分までに観測出来れば良い)
※木星出時間 8/6 0時30分 ~
11/9 18時26分(11/10 0時0分には出ている)
→ よって、2012年の昨日の星は 8/6~11/10の「木星」
よし、これで昨日の星は2011年なら土星、2012年なら木星であることが分かった。
ただ、なんとなく対象範囲が広いし、天体観測に関して重要な要素が抜けている。そう、気候だ。
星の運行は調査の結果のように天球に配置されていただろうが、雲があればそれらを観測出来ない。
”雲を抜けて 天に昇り”、昨日の星を更に追っていくこととする。
■昨日の星を突き詰める ~雲を抜けて~
昨日の星と、対象日は決まった。年月日が分かれば、下記サイトにて過去の天気を調査出来る。
ここまで来たら明けの明星が観測出来る朝方と、昨日の星が観測出来る夜間は完全に晴れている、そんな日を抽出したい。
条件は以下としよう
・3時、9時、21時が快晴
・記事欄に降雨、降雪等、雲が発生するような気象現象が無い
2011年1/1~15、2012年8/6~11/10について、条件を満たす日を調査した結果は下記だ。
<調査結果>
■2011年1/1~15にて気候条件を満たす日
→ 該当無し
■2012年8/6~11/10にて気候条件を満たす日
→ 9/26、10/15、10/20、10/21、10/26
気候条件を加味すると、2011年に該当日はない。
結果、昨日の星候補から土星が外れ木星のみになった。
結論、昨日の星は木星である
■最後に
過去の星の動き、天気からかなり条件等こじつけではあるが、昨日の星は2012年の秋頃に観測された木星であることがわかった。
もちろん、その時期の明けの明星は仰角30度以上で綺麗に輝いていたことは述べてきた通りである。明けの明星が綺麗であった2011年、12年と言えばSNSの隆盛、デフレの加速など歌詞の内容と何かしらリンクするように思われる時勢であった。
そしてその歌詞は干支が一巡した今も強烈に通じる内容。10年以上、誰かが頭の中で言語化できずに”ずっといってる”ことが、強烈なギターの音と共にあらわされている。と思う。
さて、では直近で綺麗な明けの明星が見れるのはいつ頃か、そしてその時の昨日の星は何かを記して最後にしよう。
明けの明星は、来年2025年5月半ばくらいから綺麗に見え、9月下旬くらいまでは太陽からの距離もある程度保ち観測出来そう。
そして昨日の星だが、5月20日くらいまでの短い間西側の低い位置にだが、火星が観測出来る。(0時2分までが昨日の光だよ!!)
また、6月6日から土星が昨日の星条件を満たしだし、9月下旬の綺麗な明けの明星観測可能日まで続く。
更には、9月18日から木星も昨日の星条件を満たすので、9月18日から下旬までは、昨日の星が2つ存在することになる。
来年はシンドローム天体観測としては、面白い年になりそうだ。