2人旅、いよいよ救世の冒険に出発!|創世の竪琴・その43
『チチチチチ・・・』
翌朝、渚は小鳥の鳴く声で目を覚ました。
この村にいる限り迎えられる平和な朝の風景だ。
窓からは青空と木々、そして小鳥が囀っているのが見える。
この世界が崩壊に向けて動きだしており、それを渚たちが制止するために出掛けなくてはならない、などという事は、この平和そうな風景からは想像できなかった。
渚はいろいろ考えながら、とにかく起き上がった。
「1人で考えてても始まらない・・・か。」
「おはようございます。カーラさん。」
「おはよう、よく眠れた?」
台所に行くとカーラが朝食の支度をしていた。
「はい。私、手伝います。」
「そう?じゃ、これを隣の部屋に持って行ってくれない?」
カーラはテーブルの上の朝食用のパンと食器を指さした。
「はい。」
渚が隣の部屋に行くと、そこにはもう村長とイルが座っていた。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「おはよう、渚」
こうしていると本当に平和なのに、と渚は感じた。
(でも事実は事実なんだから・・・)
「渚、何、ぼけーっとしてるんだ?」
イルが笑いながら渚に言った。
「えっ?・・・べ、別に・・・。」
慌ててテーブルにパンを置くと渚はまた台所に戻った。
朝食後、村長から占いのよく当たるシュメという名のジプシーの話を聞き、とにかく、旅に出ることに決めたイルと渚は出発の準備をする。
食料、着替え、薬草、そして村長が調達してくれたお金、それらを持ってイルと渚はニーグの村を後にした。
もちろんモンスター対策としてあの魔法玉を持つことも忘れてはいなかった。
但し、ガラス玉は貴重品であり、その上、それに魔法を封じ込んだ魔法玉は高価なので、あまり手に入れられなかった。
村外れの峠で、ここまで見送ってくれた村長夫妻と別れ、渚とイルは2人で歩き始める。
まずは、ジプシーのキャラバンの情報を得て、シュメという占術者に会うことが目的だ。
ジプシーの一行が、シセーラ公国に巡業に来るのは、その短い夏の間、しかも大きな町だけ。
と言ってもシセーラ公国自体が小さな国なのだ、当然町の規模もあまり大きくなく巡業先は限られていた。
「まず、一番近い町、『ナセル』だな。」
歩きながらイルは地図を見て言った。
「大体1週間ってとこだな。」
「その途中に村とかはないの?」
「『アシナ村』なら3日で着くけど、途中は何もない。山道が続いてるだけだ。」
「じゃ、じゃ、野宿?」
渚は覗き込むようにしてイルの持つ地図を見る。
「なんて言ってもシセーラは山地が主な国だからな。まっ、所々に山小屋はあるけどな。木こりや、猟師の一軒家とかもあるし。なんとかなるだろ?」
「う・・うん。」
気楽に言うイルと違って渚は少し不安を覚えていた。
渚にとってこんな旅は初めて。
旅行と言えば、もちろん自家用車か乗り物で、そしてきちんとしたホテルなどで宿泊するに決まっていたからだ。キャンプの時は別として。
とにかくこうして歩いて行くのも始めてなのに、泊まる所さえどうなるか分からない、それに・・・
(それに・・イルと、男の人と2人っきり・・・の旅なのよね・・・。)
渚は改めてその事の重大さを実感していた。
「なんだよ、何かついてるか、俺の顔?」
「う・・・ううん、別に。」
イルに言われ、いつの間にか地図からイルの顔にその視線を移していた事に気づき渚は、慌てて顔を背けた。
「は、は~ん・・俺に見惚れてただろ?」
「そ、そんなんじゃないわ!」
意地悪そうな顔をして言うイルに渚は慌てた。
「じゃ、どんななんだ?」
「・・・だから・・・」
「だから?」
「そ、その・・・い、いいから、急ぎましょっ!」
渚はそう言うと歩を早めた。
その渚に追いつき、イルは彼女の方を見ずに言った。
「心配するな。俺は、この旅が終わるまでお前には手は出さないと誓ったんだ。
このイヤリングが黒い限り、俺はお前には決して触れない。」
「イ・・イル・・。」
渚はイルのその横顔を見た。
その目は、遠くを見ているようだった。
イルは思っていた、廃墟での事もある程度、ゼノーに操られていたのではないかと。
渚が愛しい、欲しいという気持ちに偽りはない、あの時もそうだった。
が、自分の内のどこかにゼノーが潜んでいるような気がした事も確かだった。
(もし抱いているうちにゼノーの意識の方が上回ってしまったら・・・渚は闇に堕ちる事になる。そんな事になってしまっては!・・・)
2人っきりの旅に感じていた不安感は、渚よりイルの方が大きいかもしれなかった。