嫉妬の嵐の予感|創世の竪琴・その47
「リー、行きましょ。」
そんなイルを無視し、渚はリーに声をかけるとすたすたと町の方向へ歩き始める。
「ちょ、ちょっと待てって、渚!」
慌てて追いかけるイル。渚は無視したまま歩き続けている。
「!」
渚に追いつこうとしたイルにリーがその杖を向け立ちはだかる。
「な・・何だ、お前?」
「・・の精霊たちよ、我に力を・・・・『疾風烈波!』」
「な・・」
ようやくイルは、リーが呪文を唱えている事に気づいた。
が、防御する間もなく、イルは強風に飛ばされ道筋の木に打ちつけられ、頭を強く打ったイルはそのまま気を失ってしまう。
「イ・・・イル!」
ファラシーナがイルに駆け寄る。
渚はその光景をちらっと見るとリーを促し、足早に歩き去った。
「なんだい?意外とだらしないじゃないか?しっかりしなよっ!」
気がついたイルにファラシーナは笑いながら言った。
イルの頭はファラシーナの膝の上にあった。
「う、うるさいっ!油断してたんだよ!でなきゃ、やられるもんか、あんな奴に!」
イルは自分を抱いているファラシーナの腕を払うと、まだ痛む後頭部に手を充てながら立ち上がった。
「無理しなくていいんだって!今呪文を・・・」
「いい!このくらいどおってことない!」
イルは気が立っていた。
ファラシーナには関係ないのは承知していたのだが、気づかないうちに彼女にきつくあたってしまっていた。
「できるんなら、もっと早くやってもらいたかったねっ!膝枕なんかより!」
「そ・・そんなに、あたいは、・・邪魔だったのかい?・・・き、嫌われてたのかい?・・・あ、あたいは、あんたのこと、心配して・・あ、あたい・・・」
ファラシーナの大粒な瞳に涙が溢れ出てきた。
両手で顔を覆うと後ろを向き、堪え泣きし始める。
声も出さずに泣くファラシーナの両肩が震えている。
「ファラシーナ・・・」
いくらなんでも言い過ぎたと、ファラシーナに近づき後ろから彼女の肩を抱く。
「ご・・ごめん。・・俺が悪かった。」
「イルゥ~ゥ・・」
「お・・おいっ!」
いきなりイルの方を振り向くと、ファラシーナはイルの首に両腕をからめるようにして抱きつき、口づけをしてきた。
その顔に涙は一滴もない。
その代わりドキっとするような色香が・・・。
「フ・・フ・・・・」
騙したな?と慌てて彼女から離れようとするイルにしっかり巻きついた彼女は、その唇をなかなか離そうとしなかった。