闇の中の剣士|国興しラブロマンス・銀の鷹その44
「ホントに・・・どうして男の人って短絡的に考えるのかしら?」
セクァヌは怒っていた。珍しくアレクシードに対して。
アレクシードの実力行使は、失敗に終わっていた。
(・・私だって・・・・いやじゃないわ・・ううん・・・もっとアレクの近くにいたい・・アレクに抱きしめてもらいたい・・もっとアレクの・・・)
ふるふると頭を振り、セクァヌはその考えを頭から振り払う。
「でも、今日のアレクは嫌い!あんなアレクは・・・大嫌いよっ!約束を忘れたアレクなんてっ!」
-ドカカッ、カカッ、カカッ!-
怒りに任せてセクァヌは夕闇の中、馬を飛ばしていた。
(ん?)
いつの間にか陣営から随分離れていた。
日もほぼ落ち、辺りは暗闇に覆われつつあった。
セクァヌは、じっと彼女を伺っている気配を感じる。
(・・・誰か狙ってる?私を?)
ぐっと右手でダガーを構える。
そのままじっと相手の出方を待つ。
-シュッ!-
矢が1本木の間から放たれた。
「お馬鹿さん、居場所を知らせるようなものでしょ?」
セクァヌはすかさず剣で矢を弾くと、ダガーを投げる。
-シュッ!・・・バササッ・・-
弓矢を持った男が一人、その眉間にダガーを受け、木から落ちる。
(まだいる?)
なにやらよくない気配を感じ、セクァヌは気を張りめぐらす。
-キン!ガキン!-
少し離れたところで、剣を交える音がし、セクァヌは馬を飛ばした。
「あれは、確か、アーガヴァの領主?」
供の者らしい男と共に、10人ほどの男たちに襲われていた。
-キン!ガン!カキン!・・ザクッ!、シュッ!シュピッ!-
木陰には矢を持った刺客もいるらしい。
アーガヴァの領主はガートランド側に属していた。
が、スパルキアは刺客など差し向けた覚えはない。
そんな卑怯な手は使わない。
(つまり、ガートランドが何某かの理由で領主殺害を企てた?)
そう判断すると、セクァヌは、躊躇わずに刺客に向けてダガーを投げる。
-シュッ、シュシュッ!-
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
(ちょうどいいわ。むしゃくしゃしてたのよ!)
弓矢の攻撃の心配がなくなると、セクァヌは剣をぬき、馬上のまま領主を襲っている男たちに向かって斬りかかっていく。
-キン!ガキン!キン!-
-シュピッ!ズバッ!-
辺りは完全に闇に包まれていた。
領主の闇討ちを図ったつもりの彼らは、反対にセクァヌの格好の標的にされた。
彼らは闇にまぎれともかく領主を殺せばよかった。
はっきりと見えなくとも標的に向かって攻撃すればよかった。
が、セクァヌは違う。
どんな細かい動作でもセクァヌは確実にそれを捕らえ、そして対処していく。
突然標的に加勢してきたその剣士に、彼らは翻弄されていた。
まるで動きが全てわかっているかのように確実にその攻撃を止められ、そして、反対に深手を負わされる。
数分後、領主を襲撃した男たちはそこで息絶えていた。
「終わったか?」
「はい、閣下。」
暗闇の中、2人の話し声が聞こえた。
「途中から加勢してくれた者は?」
「は・・・」
周りを見渡す。
が、すでにセクァヌはそこから姿を消していた。
2人は姿を消したセクァヌを探す。
そして、少し離れたところで、話し声を耳にする。
「よろしいですか、姫?ここは敵地なのでございますよ?私が先に見つけたからよかったようなものの・・・。アレクに見つからないうちに早く戻らなければ。」
シャムフェスの声だった。
が、2人にはほとんど聞き取れなかった。
なんとか聞こうと聞き耳を立てているうちに、シャムフェスとセクァヌはそこを立ち去っていく。
「何者だったのであろう?」
暗闇の中では、馬に乗った剣士らしき者としかわからなかった。
「刺客ではないようですね。」
「そうだな。刺客なら構わず襲ってくるだろう。」
「は。・・閣下、我々もそろそろ館へ帰った方がよいかと思いますが。」
「・・・そうだな。刺客を誘い出すのに、少し遠出しすぎたようだ。皆が心配しておるやもしれん。」
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