頑張れ!戦士アレクシード|国興しラブロマンス・銀の鷹その34
「アレク!」
「何だ?」
「何やってるんだ?」
「何って・・・何のことだ?」
シャムフェスが何を言いたいのか分からず、アレクシードは不思議そうな顔をして聞き返した。
「アレク・・・あれほど言っただろ?」
「何をだ?」
「言葉だけは惜しむなって。」
「な、何のことだ?」
何が言いたいのかすぐわかったアレクシードは思わずぎくっとする。
「オレだって責任を感じていないわけじゃない。できるなら宴にはオレだけで行きたかった。・・だが、どうあってもお前に来て欲しいと言われてな。」
今更何を?とアレクシードはシャムフェスの顔を見つめた。
「宴のあとのフォローしてなかったんだろ、お前?」
「フォローと言ってもだな・・・・」
怒ったり拗ねたりしてくれたのなら、本心でぶつかってどうにかなったかもしれなかった。が、セクァヌはにこやかにアレクシードを遠ざけた。
そして、ハサンのことがある。
「もしかしたら、お嬢ちゃんには・・」
好きな男ができたかもしれない、と続けようとしたアレクシードより早く、シャムフェスがまるでその不安を見透かしたように断言した。
「姫の気持ちは以前と少しも変わっていないさ。悪いのは・・姫を不安にさせたままにしておいたお前だ。」
「あ・・おい!」
シャムフェスはそれだけ言うと、アレクシードがとめるのも聞かず、立ち去っていった。
「もし、そうだったとしても・・今更どうすりゃいいんだ?」
『アレクはもっと自由でいてくれていいのよ。私だっていつまでも子供じゃないんだから。一人でも・・大丈夫よ。』
セクァヌの自然からではない、作ったような笑顔と、その時の言葉を思い出し、アレクシードは、その場に座ったまま頭を抱え込んでいた。
そして、そんな状態に2人があったとき、またしてもアレクシードの心をざわつかせる出来事が起こる。
「ロト?・・・本当にあの時のロトが?」
数年前、セクァヌが銀の姫だと知らずに一日一緒に遊んだ少年、ロト。
(参照:花冠のプロポーズ)
彼が入隊してきたことを知り、セクァヌは懐かしさで目を輝かした。
勿論、公の場でそのような態度をとることはないが、新兵の名簿に目を通していたセクァヌの言葉と嬉しそうな口調に、アレクシードの心は、再び不安を感じる。
「・・・アレク・・・・」
そんなアレクシードの気持ちを敏感に感じ取ったシャムフェスは、呆れるようなため息とともに、彼の肩をぽん!と叩く。
「ここまで来て鳶に油揚げをさらわれたなんてことになったら、大陸一の戦士も単なる笑われ者だぞ?」
「シャムフェス・・・」
「それにな、今後、また姫にあの時のような不安を感じさせるようなことがあったら、その時はオレも黙っちゃいないからな。」
「何?」
シャムフェスのその手の言葉は冗談とは聞こえず、思わずアレクシードは声を荒くする。
シャムフェスがその気になれば、その巧みな会話とムードで、女はいとも簡単に落ちる。
「ははは・・・心配するな。姫の気持ちは変わりっこないさ。・・・残念ながらな。」
そんなに心配なら、セクァヌの心が離れないように、不安にさせないように言葉を惜しむな、とシャムフェスは目で付け加えて、テントを出ていった。
「お、お嬢ちゃん?」
「え?なーに?」
2人きりになったテントの中。アレクシードに声をかけられたセクァヌは、見終わった名簿を閉じて、彼を見つめる。
「そ、そのロトというのは、あの時の・・あの祭りのときの少年か?」
「ええ、そうよ。まさか本当に入隊してくるとは思ってなかったわ。」
嬉しそうに答えたセクァヌとは反対に、そんな質問をするつもりではなかったアレクシードは、焦る。
(そうじゃないだろ?オレが言いたいのは・・・・。)
「あ、あのな、お嬢ちゃん・・・」
「なーに、アレク?さっきからおかしいわよ?」
「あ、あの・・だな・・・」
にこやかに微笑みながら自分を見つめるセクァヌを目の前に、口にしようと思いつつ、やはりアレクシードの口から甘い囁きは出そうもない。
「そ、その・・・星がきれいだぞ。少し散歩でもしないか?」
「え?」
それでも、思いがけないその言葉にセクァヌは嬉しさで目を輝かせる。
「ええ、アレク。」
「アレク・・これのどこが星がきれいなの?」
特に夜空に気付いていたわけではない。
咄嗟にそういったアレクシードは、テントから出ると同時に見上げた空が今にも雨粒が落ちてきそうな曇り空だったことに、あんぐりする。
「あ、い、いや・・・・そ、そうだな・・いつの間にか雲ってしまっていたんだな。」
「もう!アレクったら。」
くすくすと笑うセクァヌを横に、アレクシードは、さてどうしたものか、と一人焦り気をもむ。
「アレク?」
雨が降りそうだから散歩は取りやめなの?とでも言いたそうな視線をセクァヌから投げかけられ、アレクシードは口ごもる。
「イ、イヤ、まだ…降らないだろうから、その辺を見回ってみるか?」
(見回ってどうする?違うだろ?!)と自分の中の自分からの突込みの声を感じつつ、のそりとアレクシードはその大きな手をセクァヌに差し伸べた。
いつもならしないその所作は、武骨な戦士アレクシードが照れながらの精一杯のセクァヌへの想いを現した意思表示でもあった。
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