命が縮む思い|国興しラブロマンス・銀の鷹その47
-ドガガガガガッ!-
集団の目標はセクァヌだったのか、はたまたローランドだったのかは分からなかった。が、敵であることは確かだった。
セクァヌを一目見た彼らは一様に驚いた表情をした後、その攻撃目標を彼女に定めてきた。
が、それがセクァヌの目的だった。
フードを取れば敵か味方かは、すぐ判断できる。
-ガッ!-
セクァヌは、その集団に向かって馬を駆って疾走する。
そして、加勢しようとするローランドらをアレクシードは前方を見たまま、彼らに背を見せたまま、左手を伸ばして制止する。
「何?」
ローランドと供の男はそれに驚く。
加勢を制止された事にも驚いたが、アレクシードがそこから動かなかったことにも驚いた。
(なぜだ?姫の護衛であるはずなのに、なぜ?姫を安全地帯に下がらせ、自分が立ち向かっていくのが護衛のはずなのに?)
そんな事を2人が考えているうちに、戦闘は始まっていた。
-シュッ、シュッ、シュッ!-
「うわっ!ぎゃっ!ぐっ・・・」
セクァヌの放つダガーが数人の眉間や喉に突き刺さり、次々と倒れる。
と同時に剣を抜き集団に突っ込んでいく。
-キン!ガキン!ドシュッ!-
その戦う様を見て、ローランドは昨夜のことを思い出していた。
昨夜の闇の中の馬上の人物とセクァヌの影が重なる。
そして、翌朝早く確認に行った時見つけた死体の中、数人の男たちは、眉間に深々とダガーを受けて死んでいた。
(間違いなく昨夜の剣士は、銀の姫・・・。)
ローランドと供の男は、セクァヌの戦う様に目を奪われていた。
まるでどう攻撃してくるのか分かっているとでも言うように、相手の攻撃を防ぎ、確実に致命傷を与えていく。
-キン!ザクッ!-
-ガキン!-
銀色の髪が激しい動きに合わせて踊り、光を弾く金色の瞳が敵を見据えていた。
-キン!ガキン!-
-ドガガッ-
「来るか?」
余裕の笑みを見せ、アレクシードが背中の大剣に手を伸ばす。
セクァヌではなく自分たちの方に向かってくる男を、アレクシードはその大剣の餌食にする。
-ガキッ!ザシュッ!・・ザン!-
大剣の餌食となった男は簡単に地に沈む。
が、あくまでも向かってくる者だけで、セクァヌに加勢するような気配は全くなかった。
ただ、いつでもそうできるような体勢であるようには見えた。
-キン!ドシュッ!シュパッ!・・・-
そうしている間にもセクァヌの戦いは続いていた。
-シュッ-
「むっ?」
アレクシードが瞬間的に後ろへ戻した大剣に手を伸ばした。
が、必要ないと判断し手を戻す。
-ドシュッ!-
数分後、襲撃してきた男たちは変わり果てた姿となって大地に横たわっていた。
「姫・・・。」
ゆっくりと馬を駆って近づいてきた彼女に驚きの表情で声を掛けるローランドに、セクァヌはにっこりと微笑む。
「お騒がせ致しました。」
「い、いや、我らこそ。標的は我らだったのかもしれん。」
ローランドは完全に圧倒されていた。
「どうだ?まだいるか?」
セクァヌはローランドから彼女に歩み寄るアレクシードに視線を移す。
「おかしな気は感じないわ。たぶんもういないと思う。」
「そうか。・・・怪我は?」
「・・・・ないと思うわ。」
「そうか。」
短い言葉だった。
が、ローランドにはその言葉の中に、アレクシードの想いを感じていた。
セクァヌの腕を信用しつつ、心の中では心配でたまらなかったのだろうと、感じていた。
「それでは、我らはここで。」
「いや、ご丁寧な見送り、感謝する。」
揃って会釈をすると、にこやかに微笑むセクァヌを大切そうにその腕に包んで馬を駆って戻っていくアレクシードの後姿を、2人は見えなくなるまでじっと見つめていた。
「まったく冷や汗もんだったぞ?」
ホントにこのじゃじゃ馬は・・・とアレクシードは大きなため息をつく。
「戦なら敵はもっとたくさんいるわ。」
「それはそうだが・・・ローランド殿たちは呆れた顔をしてたぞ?」
「護衛なのに守らないのかって?」
「そうだ。」
「剣を持って向かってくる敵より、護衛の方が危ないわ。」
「・・・?」
「ふふっ。」
セクァヌは、その言葉の意味がわからず応えないでいるアレクシードに軽く笑うと、さっと馬を下りた。
「2人だけのときは、特にね。」
「あ・・・・・い、いや、お嬢ちゃん・・・あ、あれは・・・」
ようやくその意味がわかったアレクシードは焦る。
「今回は許してあげる。わがままを聞いてくれたから。」
一人で倒すと言ったのを止めずに見守っていてくれたから。とセクァヌは目で付け加える。
「久しぶりに一人で思いっきり暴れて気分転換にもなったし。」
う~~んとのびをしてセクァヌはにっこりとアレクシードに笑いかけると、走り始めた。
「あ・・お、おい・・・お嬢ちゃん!?」
「馬ばかり乗ってると足腰弱くなってしまうわよ!」
馬では通れないような木々の間を駆け抜け、セクァヌは走った。
風を切って思いっきり。
「お嬢ちゃん!?」
アレクシードの焦りを帯びた声がセクァヌを追っていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?