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ベビースライムのお手柄|創世の竪琴・その54

翌日、正午近くにようやく起きた渚たちは、出発の準備を始めた。

山賊から足を洗うことを決め、もうあまり必要ないから持っていけというザキムの言葉に甘え、倉庫の山のような武器や道具から、イルたちは必要な物を揃えていた。

「とにかく、相手は神龍なんだ。手強いぞ。
話して理解してくれるようならいいけどな。」

「そうね・・・快く龍玉をくれればいいんだけど。」
誰もが不安を感じていた。

「魔法玉、もっといるわよね?もうあまりないんだけど・・。」

「ああ、そうだな。俺の攻撃魔法は利かないだろうしな。」

「そうよね・・イルの魔法は神龍の力を借りる魔法だから。
・・・じゃ、後は、剣を使うか・・魔法玉・・か。」

「私、お頭に聞いてくるね。」

渚はもしあったらもらおうと思い、ザキムに頼む為走って行った。

しばらく経ちイルたちの所に戻ってきた渚はがっかりしている様子だった。

「駄目だったのか、渚?」

「う、うん。ここにはないんだって。
それにガラス玉が不足していて、この辺りの町にはもうないって。
黒の森の事があって、魔物が増えてたから。」

「ふ~ん・・・ガラス玉さえあれば、今のうちにあたいの魔法でも、封じておくんだけどね。」

倉庫の奥から、自分の使えそうなダガーをどっさり袋に入れて持っていたファラシーナが、残念そうに言う。

「チュララ?」
その話を聞いていたのか、ララが渚の袋から出てきた。

「ララ?随分長いこと顔を見せないから、何処かに行ってると思ってた。」

事実、ララは結構散歩する事が多い。
いつの間にかいなくなり、いつの間にか帰ってきているのだ。

「チュラ!」

ララは自分の身体を膨らませると、イルたちが何をするのかと思っている目の前で、次から次へと、玉を吐きだした。

「えっ、こ、これ、優司のビー玉!」

そう、それは渚が自分の世界に戻った時、ララが飲み込んだ弟、優司のビー玉だった。

「使えるみたいだね、これ。」
ファラシーナがビー玉を摘んでそう言った。

「やったねっ!」

「チュララッ!」

3人は顔を見合わせた。
早速ファラシーナが自分の魔法をそのビー玉に封じ込み始めた。

その日の夕方、魔法力を使い切ったファラシーナは、ぐっすりと寝込んでいた。
準備も整い、もう一晩ここで世話になり、ファラシーナが目を覚まし次第出発する事になった。

「イル・・・大丈夫かな?」

「大丈夫だって!」
2人は満点の星空を見上げ、小屋の外で肩を並べて座っていた。

「そうね。・・・そうよね!女神様がついてるもん!」

「そういうこと!そろそろ休んだほうがいいぞ。」

「うん。お休み、イル。」

「ああ。・・・あっ、渚!」

イルが立ち上がり小屋に入ろうとする渚を呼び止めた。

「何、イル?」

イルは、自分も立ち上がり、振り返った渚に一歩近づいた。

「渚・・・」

イルは、渚を抱きしめたい衝動に駆られていた。
が、ぐっと思い止まり、渚に差し延べかけた腕を引っ込めた。

「いや・・何でもない。よーく寝ておくんだぞ。」

「うん。」
渚はにこっとイルに笑いかけると、小屋に入って行く。

「眠れそうもないな・・・・」
渚の入っていった小屋の壁にもたれ掛かると、イルはじっと星空を見上げていた。

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